元経産官僚の古賀茂明氏がテレビ朝日の「報道ステーション」で、菅義偉官房長官を名指しして「官邸からのバッシングを受けてきた」などと発言し、官邸の圧力やテレビ朝日の上層部の意向を背景に自らが降板させられたなどと主張した問題で、「圧力の有無」が議論になっている。
その根拠のひとつが、菅官房長官が古賀氏の発言を「事実無根」などと非難する中で、放送法に言及したことだ。これこそが「圧力」だとする向きもあるが、メディア業界の中でも受け止め方は割れている。
古舘氏、「事態を防げなかった」ことを陳謝
菅氏は2015年3月30日午前の会見で、古賀氏の発言について
「全く事実無根であって、言論の自由、表現の自由は極めて大事だと思っているが、事実に全く反するコメントをまさに公共の電波を使った報道として、極めて不適切だと思っている」
などと非難。これを受ける形で、テレビ朝日側は番組や会見で謝罪を繰り返した。
古舘伊知郎キャスターは同日の放送で、番組の立場として、「古賀さんがニュースと関係のない部分でコメントした」ことについて「残念」だと述べ、テレビ朝日の立場として、
「そういった事態を防げなかった。この1点において、テレビをご覧の皆様方に重ねてお詫びをしなければいけないと考えております」
と話した。テレビ朝日の早河洋会長も翌3月31日の定例会見で、
「その(番組で扱った)ニュースに関する意見や感想のやりとりではなく、出演をめぐる私的なやりとりみたいなものが番組内で行われたということは、あってはならないこと」
「番組進行上あのような事態に至ったことについては反省しており、皆様にお詫びをしたいという気持ち」
などと陳謝した。官邸からの「圧力」説については、
「私のところにも、吉田(慎一)社長のところにも、報道局長のところにも圧力めいたものは一切ない」
などと否定した。
放送法では「報道は事実をまげないですること」求めている
こういった経緯をめぐり、メディア関係者の中でも「圧力」の有無に関する受け止め方は割れている。それが最も分かりやすい形で明らかになったのが、4月1日に日本テレビ系で放送された「ミヤネ屋」でのコメンテーターの発言だ。
元共同通信記者の青木理氏は、
「陰に陽にあるんですよ、圧力ってのは。現政権は特にあるんですよ、陰に陽に」
と、圧力は「ある」という立場で、「報ステ」にエールを送った。
「こういう風に権力から言われるのは勲章だと思うので、ますます頑張ってほしい」
青木氏が特に問題視しているのが、菅氏が会見で放送法に触れたことだ。具体的には、菅氏が今後の対応方針について聞かれ、
「放送法という法律があるので、まず、テレビ局がどのような対応をされるかということをしばらく見守っていきたい」
と答弁した点だ。菅氏は具体的な条文について言及したわけではないが、第4条では番組編集について(1)公安及び善良な風俗を害しないこと(2)政治的に公平であること(3)報道は事実をまげないですること(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること、の4点を求めている。菅氏の発言は、この第3条の第4項「報道は事実をまげないですること」を念頭に置いていると受け止められている。
権力の側が放送法を持ちだすのは「一種恫喝になる」
こういったことについて、青木氏は、
「権力の側が放送法を持ち出すのは、やっぱり権力のありようとしてはよろしくない。それって一種恫喝になるわけでしょ?ちょっと言い過ぎ」
などと批判した。
これに対して、「圧力は『ない』」という立場なのが、青木氏の隣に座っていた橋本五郎・読売新聞特別編集委員だ。放送法については、
「放送法って言われたからって、何もたじろくごとないじゃないですか?別に官房長官は官房長官として、それは放送法というのは公正に(放送を)やろうとしている法律なんだから、(テレビ局の側は)『当然、放送法(の趣旨)でやってますよ!』と言えばいい話。それを圧力と感じること自体が変」
などと反論。一般的な「圧力」についても、
「僕は圧力圧力って、さっぱり感じないんだよね」
とした。
これに対して、青木氏は国会同意人事のNHK経営委員に安倍政権と近いと考えられている人が就任したり、自民党が14年12月の衆院選報道についてテレビ各局に対して「公平中立」を「お願い」する文書を渡したことを挙げながら、
「圧力が陰に陽に強まっているのは間違いない」
と改めて強調していた。