牛丼チェーンの「すき家」を展開するゼンショーホールディングス(HD)が、牛丼の値上げに踏み切る。
競合する「吉野家」や「松屋」が2014年に相次いで「380円」(並盛)に値上げしたなか、すき家だけが値上げせずに頑張ってきたが、ついに陥落。「すき家よ、お前もか」・・・そんな、ため息まじりの声がビジネスパーソンから聞こえてきそうだ。
米国産牛肉、この1年で1.5~2倍に値上がり
すき家は「NEW VALUE」をコンセプトに、牛肉や玉ねぎを20%増量した「新しい牛丼」を、並盛350円(税込み)で2015年4月15日から販売する。現行の牛丼並盛291円から、59円の値上げ。ねぎ玉牛丼などのオリジナル牛丼も、42円から62円(税込み)の幅で値上げする。
値上げの理由は、米国産牛肉の価格高騰。牛丼に使われている「ショートプレート」と呼ばれる輸入の牛バラ肉は、2011年以降に米国で発生した干ばつの影響で出荷量が激減。その一方で、中国や東南アジアをはじめとした世界的な牛肉需要の拡大がある。それによって、最近の1年でみても1.5~2倍ほど値上がり。相場では1キログラムあたり1000円超の高値にハネ上がったときもあった。
すき家に限ったことではないが、パート・アルバイトの人手不足と、それに伴う時給の引き上げもコスト増の大きな要因。加えて、米国景気の回復で米ドルが強まり、円安に拍車がかかっていることで輸入コストが上昇。電気代や包装材、物流費の値上げが追い討ちをかけており、さすがに耐え切れなくなったということらしい。
牛丼チェーン大手3社の牛丼(並盛)の価格は、消費税率が8%に引き上げられる前の2014年3月までは「280円」で横並びだった。それが4月以降、吉野家が税込みで300円に、松屋は290円に値上げ。すき家だけが270円に値下げして対抗した。
ところが、14年7月に松屋が熟成されたチルド牛肉を使った380円の「プレミアム牛めし」を投入。すき家も8月に270円から現行の291円に値上げした。
14年12月には吉野家が300円から380円に再値上げ。松屋と吉野家が「380円」で並んだことで、すき家の動向が注目されていた。
今回の値上げで「350円」となるすき家だが、ライバルの吉野家や松屋との比較では依然として最安値であることに変わりはない。
牛丼350円、「当社としてはギリギリのところです」
一方、ゼンショーホールディングスが2015年4月1日に発表した、すき家の3月の売上高(既存店ベース)は前年同月比9.2%減で、2か月連続のマイナスだった。客数も13.9%減と大きく減らした。これで牛丼の価格を現行の291円に引き上げた14年8月以降8か月連続のマイナスだ。客単価は5.4%増だった。
同社は客数について、「昨年好調だった牛鍋が今年はそれほどではありませんでしたから、その分があります。(14年8月の)値上げ以降、前年を超えることができませんが、客単価は前年を上回っています。これがデフレからインフレ基調へと変わる過渡期にみられる状況なのだと考えています」という。
客数が伸び悩むなか、値上げで客足がさらに遠のくことはないのだろうか――。350円という価格設定について、ゼンショーHDは「基本的に、当社としてはギリギリのところです。利益を追求する一方で、お客様には牛肉を20%増量したバリューを感じてもらうことで、『また行きたい』と思ってもらえるライン(価格水準)だと考えています」と話す。
200円台の攻防が繰り広げられてきた「安売り」牛丼の時代は、すき家の値上げで終わりを告げる。かつては「デフレの象徴」とされた牛丼だが、いまや「脱デフレ」の象徴になりつつあるようだ。