日本の外務省がこのほど公開した国際協力のPR動画を、韓国メディアが「妄言」などと非難している。動画は日本の政府開発援助(ODA)などがアジア各国のインフラ整備に役立っていることを紹介する内容なのだが、その中にソウル地下鉄や浦項製鉄所が出てきたことが問題視されている。
これらのインフラは、韓国が急成長した「漢江(ハンガン)の奇跡」の一角をなすものだ。日本の円借款を利用して建設されたのは間違いないのだが、日本側のPRの材料になったことに感情的な反発が起こっているようで、「純粋な援助ではない」といった主張も出ている。
ユーチューブ上に10か国語で公開
動画は「戦後国際社会の国づくり 信頼のおけるパートナーとしての日本」と題した2分程度のもので、ユーチューブ上に10か国語で公開されている。日本語や英語は2015年2月、韓国語や中国語は3月に掲載された。
動画の前半は、戦後に日本がアジア各国で行ってきた政府開発援助(ODA)の成果を強調する内容だ。
「1951年のサンフランシスコ平和条約により国際社会に復帰した日本は、1954年のミャンマーを皮切りに、いち早くアジア各国への経済協力を開始。韓国、浦項(ポハン)の総合製鉄所の建設、中国の石炭生産地、秦皇島と北京を結ぶ鉄道の拡充、スリランカのハブ港、コロンボ湾の拡張など、各国の経済インフラ整備をODAにより支援し、アジアの発展の基礎を築きました」
というナレーションとともに、日本が援助した施設の写真がスライド状に映し出される。後半は、平和維持活動(PKO)への参加やアフガニスタン復興への取り組みを紹介している。
動画で韓国が出てくるのはほんの一部
動画で紹介された日本の援助対象は、韓国、ミャンマー、インドネシア、カンボジア、中国、タイ、ベトナム、インド、ラオスと多岐にわたる。韓国について言及されているのはほんの一部に過ぎないが、どういうわけか韓国メディアだけが動画に反発している。中央日報は「妄言が波紋」という見出しで、動画が、
「植民地支配や慰安婦強制動員、過去の歴史歪曲などの反省に一言も言及しなかった」
として、
「この動画は、経済開発支援国家という点を強調し、戦犯国という日本の国際的イメージを隠そうとする意図で製作されたとみられる」
などと決めつけた。
聯合ニュースも、
「過去の日本の帝国主義の侵略と韓日協定などによる請求権資金(編注:1965年の日韓請求権・経済協力協定で定められた無償3億、有償2億ドルの経済協力)が(浦項製鉄所を操業している)ポスコなに投入されたという事実は明らかにしておらず、アジア諸国の繁栄が日本の自発的支援の結果であるという誤解を生む作りになっている、という議論は避けられなさそうだ」
などと主張している。
動画に登場した製鉄所やソウル地下鉄の建設に日本政府の円借款が活用されていることはまぎれもない事実だ。ただ、この「経済協力」には日本から韓国に対する戦後補償という意味合いも帯びているため、韓国国内で「円借款は純粋な支援ではない」→「日本が支援の成果としてPRするのはおかしい」といった独自の主張が生まれる原因になっている。
だが、こういった認識は事実と異なっている。特に浦項製鉄所については、ポスコの朴泰俊(パク・テジュン)名誉会長=2011年死去=が08年に中央日報のインタビューで、米国からの資金調達に失敗したことを明かし、
「(無償経済協力)3億ドルのうち、当時使って残った金額は7370万ドルだった。 さらに日本輸出入銀行から5000万ドルを借り、本格的な工事を始めることができた」
と述べている。「経済協力」だけでは製鉄所の建設はできなかったことになる。