東京に桜が咲き始めるまでに「株価2万円乗せを」という兜町の期待は、あっさり袖にされた。
3月期決算企業の期末配当を受け取れる権利付き売買最終日の2015年3月26日、日経平均株価は前日比275円安の1万9470円と久々の落ち込み幅を記録。相場の裏をかくことに長じた海外ヘッジファンドや一部個人投資家の利益確定売りがかさみ、大台達成は当面お預けになった。
公的マネーが「日本株爆買い」
「過熱感が出ていた相場がいったん調整した。ですが、円安や原油安に支えられた日本企業の増益基調は変わらず、『2万円』はあくまで通過点。それが3月末か4月以降かなんて、意味がない」。大手銀行系証券アナリストは苦笑した。市場関係者の先高感は依然として強いのだ。
だが、3月以降の株価上昇局面では、過去に「シャドー(鏡)相場」ともいわれた米国市場が下落したにもかかわらず、日本株は大幅高になる「異例現象」がたびたび発生し、「市場の変調」に不安感を抱く声もなくはない。
理由は他でもない。市場関係者が「クジラ」と呼び鳴らす公的マネーの「日本株爆買い」と、それを当て込んだ「ちょうちん買い」が相場を実態以上に押し上げているとの見方が根強いためだ。
「3月以降の株価は、『円高は売り、円安は買い』という為替との相関すらなくなっていた。米国株とも全く連動しない。理屈をつけようとすればするほど、分からなくなる」。顧客に投資情報を提供している外資系証券会社の幹部がサジを投げたようにつぶやく。
「相場が下げた局面では年金などのクジラが1日に数百億~数千億円単位で買いを入れる。日本株は下がりようがないと安心した外国人や国内個人投資家が需給要因だけで買い急いでいる」というわけだ。
確かにクジラの威力は絶大だ。筆頭格は公的年金137兆円の運用資産を持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。昨年秋に運用資産に占める日本株比率をそれまでの15%から25%に引き上げることを決めた。5%の資産を入れ替えるだけでも6兆円以上の資金が動く国内最大のクジラだ。
さらに地方公務員共済組合連合会など公務員が加入する3つの共済年金が持つ約30兆円の資金も無視できない。3共済は今年秋にGPIFへの運用一元化を控えているため、国債が中心だった運用資産を急ピッチでGPIFと同水準の株式比率に高めているという。
保有資産の大部分を国債で安定運用していた日本郵政傘下のゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の存在も見落とせない。日本郵政は今年秋にも株式上場が計画されている。西室泰三日本郵政社長は、収益を高めるために運用資産に占める株式の比率を高めていく方針を表明している。もちろん、株式市場で取引される上場投資信託のETF買いを進める日銀の存在も大きい。
投資マネーがあふれている
大手証券会社によると、これら5頭の「クジラ」による日本株の買い余力は合計で約30兆円。最近の東証の一日あたりの売買金額が2兆~3兆円であることに照らせば、その影響力の大きさは一目瞭然。
大手資産運用会社の幹部が説明する。「これらの『準公的資金』の投資対象になるのは、日経平均構成銘柄の中でも特に政府が旗を振るコーポレートガバナンス(企業統治)や資産効率を重視するいわゆる大型株。最近、新興企業などの多いマザーズなどの市場がさえない一方で、トヨタ自動車、ファナックなどの先進企業の株価が上場以来の高値を更新していることからも、影響力の大きさが見て取れます」
世界の株式市場を見渡せば、欧州中央銀行(ECB)が3月からユーロ圏の国債を買い取って市場に資金を供給する量的緩和を始めたのをはじめ金融緩和が各国に連鎖し、投資マネーがじゃぶじゃぶにあふれている状態。
原油安の進行による資源国経済の行き詰まりや、ウクライナ情勢の膠着、さらに主要国で唯一、利上げ時期を探る米国経済の先行き不透明感などリスク要因には事欠かない。その中で「クジラ」が泳ぎ回る日本がマネーの受け皿になっている構図だ。
「官製相場」ともいえる日本の株式市場に対し、安倍政権の閣僚からは「本当に官製相場なら、過去(に株価維持策が取られた時)と同様にすぐに底が割れるんじゃないんですか」(菅義偉官房長官)との反論も聞こえてくる。
年度内の2万円達成はいったん遠のいたものの、4月に再び2万円を目指す展開になるのか。「余剰マネー」に支えられた相場の持続性に多くの投資家が自信を持てずにいるのは間違いない。