世界最大のモバイル機器の見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)2015」で、韓国サムスン電子と同じく新型スマートフォン(スマホ)を発表したのが、台湾の宏達国際電子(HTC)だ。
かつては世界シェアで、米アップルとサムスンを追う「2番手グループ」につけていたが、中国メーカーの勢いに押されて存在感が薄くなってきた。新型スマホが反撃のきっかけとなるか。
iPhoneを追い落とすほどの力強さなく
HTCがMWCで発表した「HTC One M9」は、先代モデルを踏襲した金属製のボディーでプレミアム感を出した。2000万画素のリアカメラ、また「暗いところで他社と比較した際に画質が良かった」(HTC日本の広報)とMWCで評価された400万画素のフロントカメラが付く。旗艦モデルとして、高級イメージの押し出しを図った。
HTCには「スマホの先駆者の1社」という自負がある。「他社の追随ではない独自の、最先端の端末を発売してきた」とHTC日本の広報は強調する。今では主要スマホメーカーの多くが採用している米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」も、日本国内ではHTCが2009年、初めて端末に採用して発売した。2012年9月20日付の「東洋経済オンライン」によると、一時は世界シェア10%に達し、ブランド価値はイタリアのフェラーリ社を上回った。
しかし、その後スマホのシェアは下がり「トップ5」から脱落。2013年7~9月期は、四半期決算で初めて30億台湾ドル(約114億円)の赤字となり、いったん持ち直すが2014年1~3月期には再び18億台湾ドル(約69億円)の赤字を計上した。代わりに2014年は、華為技術(ファーウェイ)や聯想集団(レノボ)、中興通訊(ZTE)、小米(シャオミ)といった中国勢が台頭し、HTCはわきに追いやられてしまった。
2014年3月にスマホ「HTC One M8」を発表すると、4~6月期決算では4四半期ぶりに営業黒字を回復、22億台湾ドルの純利益も出した。一定の効果はあったようだが、その後「アイフォーン(iPhone)」の新モデルが出るとこれを追い落とすほどの力強さは「M8」にはなく、同年10~12月期の連結売上高は「好調だった11年同期の半分以下」(日経産業新聞2014年11月4日)と振るわなかった。
日本市場ではオリジナルモデルを出す独自の動き
HTCの「おひざ元」である台湾ではどうか。現地在住の日本人男性は、まだまだHTCの存在感は大きく、感覚的にはアップル、サムスンと並ぶ人気だと話す。都市部のショッピングモールには専門店を構え、スマホをはじめ商品が陳列されている。「HTC One M9」の発売を宣伝する看板も立っている。
同社は、日本では独自の動きを見せる。「HTC J」のブランド名で数機種を出しているが、これは日本オリジナル。グローバルモデルとなる「HTC One M9」が日本で発売されるかどうかについては、HTC日本の広報は明言を避けたが、「ここ数年、日本にはグローバル端末が出ることは少なく、日本独自のものが発売されることが続いております」と説明する。ただ、その日本市場でもHTCの存在感が大きいとは言えないのが現状だ。
2014年リリースした旗艦モデルのスマホは、ライバルを蹴落とすほどのパワーには欠けていた。その後継機となる「M9」にかけるHTCの思いは強いだろう。MWCで一定の話題は集めたが、同じタイミングでサムスンが「ギャラクシー(Galaxy)」を大幅にリニューアルし、しかも2機種を投入した。アップル人気は健在で、「中華スマホ」の勢いはまだ続いている。HTCにとっては正念場が続く。