中国がイギリスを狙った理由
しかも、中国の外交戦略は巧みだ。オバマ政権がレームダックになって一番弱体化しているときを見計らって、しかもアメリカと現在微妙な関係になっているイギリスを狙ってきた。オバマ大統領はチャーチルの植民地政策を批判していたので、イギリスの関係は従来ほど強固でないのも、見透かしていた。
イギリスは英連邦の盟主であり、イギリスを落とせば、オーストラリア、ニュージーランド、カナダはなびく可能性がある。イギリスのウィリアム王子が今月(2015年3月)訪中した段階で、勝負あった感じだ。アメリカは外交政策でどうやら失敗したようだ。
日本としては、AIIBのライバルであるアジア開発銀行(ADB)があるので、すぐにAIIBに参加とはいかない。ただし、長い目でみれば、AIIBには一切関与しないのも外交戦略上マイナスだ。
焦ることはない。中国には、国際金融業務のノウハウがないので、いずれアジアで実績のある日本に水面下では協力を求めてくるはずだ。オモテの政治とウラの実務を使い分けてくるのが中国のやり方だ。
日本は、実務への協力要請がきた後、AIIBの融資に理事会が実質的に関与できるかどうかを見極めてから、AIIBに参加したらいい。
融資案件を理事会で決定するという国際標準の仕組みがないまま、焦って参加したら、不良債権を押しつけられるだけになる可能性もある。しかも、AIIBが北朝鮮に融資するとなったら、どうしたらいいのか、よく考えておくべきだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。