ドイツの格安航空会社(LCC)が運航する中型旅客機が2015年3月24日、フランス南東部の山岳地帯に墜落した。日本人2人を含む乗員乗客150人が乗っていたとみられるが、現地報道などによると、生存は絶望視されている。
事故を起こしたのはドイツ最大の航空会社、ルフトハンザ航空系の格安航空会社(LCC)「ジャーマンウィングス」が運航するスペイン・バルセロナ発ドイツ・デュッセルドルフ行き4U9525便。墜落した機体は仏エアバス社のA320型機と呼ばれる機種で、LCCが好んで採用する機種でもある。A320は安全性が高いとされてきたが、なぜ悲劇は起きたのか。
操縦桿が姿を消して車のギアのような「サイドスティック」に
A320は1988年に初めて就航。操縦桿などの動きを電気信号に変換し、コンピューター制御で操縦する「フライ・バイ・ワイヤ」と呼ばれる仕組みを旅客機としては世界で初めて導入したことで知られる。これまでパイロットの正面にあった操縦桿は姿を消し、乗用車のギアのような操縦席脇の「サイドスティック」に置き換えられたのも大きな特徴だ。こういった最新鋭の設備で運航コストを下げたのが「売り」でもある。150人~200人を乗せることができ、「中型機を中距離で頻繁に飛ばす」というLCCのビジネスモデルと一致。今では全世界で約300社が約6200機を運航している。
事故情報を集計しているウェブサイト「エアセーフ・ドットコム」のまとめによると、フライト100万回あたりA320が死亡事故を起こしたのは0.10回。ボーイング737型機が0.28、747型機が0.67、777型機が0.27だ。どちらかと言えばA320の事故率は低い方だと言える。
世界中の航空機の運航情報を集めているサイト「フライトレーダー24」によると、4U9525は現地時間10時1分にバルセロナを離陸し、10時27分に巡航高度の3万8000フィート(約1万1580メートル)に達した。そのわずか3分後の10時30分には急降下を始め、38分には1万1400フィート(約3470メートル)にまで高度を下げた。40分に高度6800フィート(約2070メートル)で消息を絶った。
与圧装置が故障すると急降下を強いられる
一般的には、飛行機が急降下する際にはスピードが出過ぎてしまうが、今回の飛行記録を見る限りでは、急降下中のスピードはほぼ一定だった。このことから、パイロットは機体をコントロール可能な状態で、パイロットの意思で急降下したとみられる。
では、なぜパイロットは急降下を強いられたのか。ひとつの可能性として指摘されているのが、「急減圧」説だ。通常、人間は高度1万メートルの気圧では生存することは不可能だが、密閉された機内で気圧を高く保つことで快適に過ごせるようになっている。高い高度で与圧装置が故障した場合、乗員や乗客に危険が及ぶことになるため、比較的安全な3000メートル程度まで急降下する必要が出てくる。
そういったケースは、実際に10年ほど前に起きている。05年5月8日11時41分頃、ブラジル・サンパウロ発ニューヨーク経由成田行きの日本航空JL47便(ボーイング747-400型機)が新千歳空港の南東約370キロを飛行中に与圧装置が故障。高度3万6000フィート(約1万1000メートル)を飛行中だったが、乗客用の酸素マスクを降ろして1万フィート(約3050メートル)まで急降下。12時51分頃、新千歳空港に緊急着陸した。
JL47のケースではけが人はいなかった。JL47とは対照的に、4U9525が急降下後に墜落にまで至った原因は明らかになっていない。すでにブラックボックスは回収されており、フライトレコーダーなどの分析が待たれることになりそうだ。
事故機は1991年に親会社のルフトハンザ航空に納入され、14年からジャーマンウィングスで運航されていた。エアバスの発表によると、事故機はこれまでに4万6700回のフライトで5万8300時間飛行してきた。旅客機としては比較的古い方だが、25年程度であればきちんと整備していれば安全に運航できるとも考えられている。今後、ジャーマンウィングスの整備体制も問われることになりそうだ。