「有事の備え」といわれる金。世界の中央銀行では新興国を中心に、金の保有量を増やしている。
一方、日本の保有量はわずか765.2トン(2014年12月末時点)。最近3年の保有量に変化はないが、外貨準備に占める割合は2%と、他の先進国に比べると圧倒的に少ない。世界の中央銀行が金の保有を増やすなか、日本の動きは逆行しているのだろうか――。
日本の保有量765.2トン、世界9位
金取引業者の国際的な調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)がまとめた2014年(通年)の金の需要レポートによると、2014年の金の年間需要は前年比4%減の3923.7トン。このうち、宝飾品需要は2152.9トン(前年比10%減)、投資需要は904.6トン(2%増)、テクノロジー分野は389トン(4.7%減)で、2003年以来11年ぶりの400トン割れへと減少した。
そうした中で、中央銀行の金の購入量は、好調だった13年の409トンを68トン(16.6%)上回る477.2トンとなった。これは世界の金準備が544トン増加した12年に次ぐ、過去50年の最高記録に迫る水準だ。中央銀行による金の買い越しは、2010年以降5年連続。WGCはレポートで、「中央銀行が一斉に金を購入」としている。
2014年に金準備を増やしたのは、前年に引き続きロシアが突出。173トン(16.7%)も増やして、保有量は1208.2トン、外貨準備金全体の12%を占めた。
ロシアにとって2014年は、年初にはじまったウクライナとの対立とそれによる国際的な対ロ制裁で、年末にかけては深刻な経済危機に見舞われた。まさに金が「有事の備え」となったわけだ。
また、カザフスタンとイラクがそれぞれ前年比48トン増。イラクの場合、1年で金の保有量が3倍に増えたことになる。アゼルバイジャンが10トン、トルコも9.4トン増えた。 ロシアに近い、独立国家共同体(CIS)諸国を中心に金準備の補強が続いた一方で、金の売却はウクライナの約19トンにとどまる。
中央銀行の保有量を国別でみると、米国がダントツの保有量で8133.5トン。外貨準備に占める割合は73%にも及ぶ。2位のドイツは米国の半分以下で 3384.2トン(68%)。以下、IMFが 2814.0トン、イタリアの2451.8トン(67%)、フランス 2435.4(66%)と続き、ロシアは13年の8位から6位に順位を上げた。中国は1054.1トン(1%)で7位、日本は9位だった。
経常黒字が続いた時、ドイツは金、日本は米国債を買った
新興国を中心とした世界の中央銀行が金の保有量を増やす傾向にあるのは、米ドル資産の分散化が狙いだ。金・貴金属アナリストの亀井幸一郎氏は、「新興国は外貨準備で米ドル資産を積んできましたが、その兼ね合いで金も保有するようになりました。つまり、米ドルのリスクヘッジですね」と説明する。金は長期的には米ドルと負の相関をもつので分散効果が高いという。
一般に、金は通貨を保有する代わりとされ、外貨準備に積み立てられる金は為替介入や対外債務返済のための資金になっている。
新興国は稼いだ外貨の運用先を、本来なら基軸通貨の米ドルにして米国債で保有するが、日米欧とも量的緩和で通貨は溢れている状況のため、長期的にはドルやユーロ、日本円も弱くなる傾向にある。それもあって、通貨の代替として金を外貨準備に充てようとしているわけだ。
亀井氏は「戦後多くの経常黒字を抱えたとき、ドイツは金に、日本は米国債を買いました。いわば、その差が出ているわけです。いま日本は、米国債の保有規模が大きくなりすぎて、売りたくても売れないほどです」と話す。
とはいえ、金を外貨準備に充てている国は多く、米国やドイツ、イタリア、フランスのほかにもオランダ(外貨準備に占める割合が55%)やポルトガル(75%)なども高い割合で保有している。日本の2%は、あまりに少なすぎるのではないか――。
日本銀行は、「外貨準備には各国の歴史的な経緯があります。また、運用については外貨準備管理の一環なので、方針は開示できません」と話している。