中国人観光客に、「ニッポン」の居酒屋が人気だ。
居酒屋といえば、リーズナブルな価格で仕事帰りに気軽に立ち寄れる。個人経営の小さな店からチェーン店まで、繁華街はもちろん、駅近くには必ずといっていいほど見かける。日本人にとってはなんの変哲もない場所に、わざわざやって来るらしい。
お酒はあまり飲まず、貝類の「浜焼き」が大人気
円安の進展で、外国人からみて日本への旅行に割安感が出てきた。それに、免税品の対象拡大やビザの発給要件の緩和、さらには航空路線の拡充や大型クルーズ船の寄港が増えたことが追い風になって、2015年2月も訪日外国人客数は100万人を超えた。
中でも中国人観光客は春節(旧正月)もあって、前年同月と比べて2.6倍増の35万9100人と大きく伸びた。訪日外国人客のじつに4人に1人が中国人だったことになる。
東京・銀座や秋葉原などの百貨店や家電量販店、免税店には「爆買い」と呼ばれる中国人の買い物ツアーのバスが並んでいたし、JR線や地下鉄の中でも多くの中国人らしき観光客を目にした。
そんな中国人観光客に、秘かに人気なのが「居酒屋」だという。
中国人に人気の居酒屋チェーンの一つが、SFPダイニングが運営する「磯丸水産」。東京を中心とする首都圏と関西に90を超える店舗があり、24時間営業している。店には大漁旗をイメージさせる赤やオレンジのカラフルな配色と提灯、イカ釣り船を思わせる煌々としたランプがぶら下がる。
目玉はエビやホタテ、イカなどの活きのいい魚貝類を、卓上コンロを使って自分で焼き上げる「磯丸焼き」。そんな漁師料理の「浜焼き」スタイルを取り込んだメニューと、店員の威勢のいい接客が売りだ。
中国人の利用について、同社は「1年前と比べて1.5倍くらい増えた」とみている。「日中関係が落ち着いたので、最近は訪日外国人数の増加とともに中国人観光客も増えてきました」と話す。
多くは浜焼きを注文、とくに貝類は大人気だ。一度に沢山注文、食事をして、長居をせずに帰る人が多い。お酒はあまり飲まないそうだ。
「日本人の生活や文化、交流を楽しみたい」外国人増えている
一方、「和民」や「わたみん家」などを展開する居酒屋チェーン大手のワタミでも、「団体客の利用もあって、(中国人観光客が)増えていることは間違いありませんね」と話し、「カンパイで盛り上がり、活気があってワイワイガヤガヤと飲むスタイルが受け入れられているようです」とみている。
ワタミが運営する居酒屋では、英語のほか、中国語や韓国語のメニューを用意。また、メニューは写真入りで、外国人でも料理がイメージしやすいよう工夫している。なかには、あえて日本語のメニューから選んで、どんな料理が出てくるのかを楽しむ人もいるそうだが、「焼き鳥や焼き魚など居酒屋の定番メニューが喜ばれています」。いろいろな料理を安く、たくさん食べられることも好評の要因だ。
中国人が増えてきた理由について、ワタミは海外展開による高い認知度に加えて、『IZAKAYA』が日本の食文化や交流の場としてガイドブックなどで紹介されていることをあげる。また前出の「磯丸水産」のSFPダイニングも、「中国語の観光ガイドでちょこちょこ取り上げられたことが、きっかけになっていると思います」という。
さらには、居酒屋で楽しく過ごした中国人観光客らが帰国してから、自身のブログなどに綴っているケースがあるようで、そういったインターネットによる「口コミ」効果もあるようだ。
JTB総合研究所の調査によると、最近は中国人に限らず、富士山や京都などの定番の観光地を巡る旅行スタイルから、日本人が意外に思う場所、たとえば「デパチカ」や代々木公園でのパフォーマンス見物といった、日本人の生活や文化に密着した場所や、日本人との交流に楽しみを求める傾向がみられるようになってきたとしている。
「居酒屋」もその一つなのかもしれない。