覚せい剤取締法違反で実刑判決を受け、3年半服役した田代まさしさんが、2014年7月の出所後初めて会見に臨んだ。自身の薬物依存症の治療体験をつづった本の出版イベントに合わせたもので、多くのマスコミが取材に訪れた。
薬物を断てず、更生を口にしながら何度も逮捕された田代さん。それでも今回、マスコミが続々と会見に出向いて著書のPRに手を貸した。なぜなのだろう。
「どうしてマスコミは取材に行くのか」
スポーツ紙にテレビの情報番組、出版社の記者から田代さんに向けて次々と質問が飛び出した。2015年3月18日、東京都内で開かれた記者会見の様子だ。
現在、薬物依存症更生支援施設「ダルク」でスタッフとして勤務しているという。記者からの問いに、
「(仕事内容は)事務所の掃除や電話の応対、週末は全国の(薬物依存症から立ち直ろうとしている)仲間たちに僕なりのメッセージを届けに行っている」
「芸能界に復帰したいという思いはない。薬物をやめ続ける姿を見せていくことで、将来何かにつながればいい」
「自分のことで精いっぱい」
と、ひとつひとつ答えていく。2014年秋には、同じく覚せい剤取締法違反で執行猶予付きの有罪判決を受けた歌手・ASKA(本名・宮崎重明)さんが当時入院していた施設を訪れ、直接激励の言葉を送ったエピソードを明かした。
会見の模様は、扱い方に差はあるが多くのマスコミが報じた。サンケイスポーツは3月19日付の紙面で「田代まさし昨秋ASKAと対面」と題して短めに出稿。テレビでも、3月20日放送の「とくダネ!」(フジテレビ系)が、ASKAさんが証人として出廷したニュースに絡めて、田代さんがASKAさんについて語った部分の映像を流した。「日刊SPA!」は3月19日、田代さんの「直撃インタビュー」の記事を配信している。
テレビやスポーツ紙といった既存メディア、インターネットメディアいずれも、田代さんの話題を報じたケースは多い。芸能評論家の肥留間正明さんは、「ニュースとして取り上げる話題だろうか。どうしてマスコミは取材に行くのか」と疑問を呈する。
過去に逮捕と復帰を繰り返した田代さん。2008年には今回と同じ場所で「復帰会見」を開き、神妙な面持ちで反省の弁を述べていたが、その後また逮捕された。信用を完全に失った今の田代さんを、いまさら多くのマスコミが会見を取材してもてはやすのかが不思議というわけだ。
もう芸能界の方が彼を相手にしない
肥留間さんは、田代さんが薬物から完全に抜け出そうとすることについては「頑張ってほしい」とエールを送る。だが、過去に芸能関係者を何度も裏切ったのは事実。田代さんは芸能界復帰がネット上でうわさされている点に「本意じゃない」と反発し、その意思はないと明言した。ただ肥留間さんは、「もう芸能界の方が彼を相手にしない」とバッサリ。仮に戻りたくなったとしても不可能だ、との見方だ。
極めて厳しい立場に置かれている田代さんを、それでも多くのマスコミが取り上げたことに「これでは、視聴者や読者から『伝えるべきニュースがほかにあるだろう』と言われてしまう」と話す。どうしても田代さんを報じたいのなら、例えば更生施設での暮らしぶりをつぶさに取材し、薬物から必死になって抜け出そうとしている姿を徹底して追うような、ストーリーとして軸がしっかりした話でないと意味がないという。