景気が上向き、株式市場が連日のように値上がりしているのは日本だけではない。海の向こうの米国も好景気に沸いている。それを反映してか、ニューヨーク州のウォール街に勤める金融マンの2014年のボーナスは平均で17万2860ドル、日本円で2090万円にのぼった。
雇用も増えていて、13年と比べて1%増の16万7800人となり、3年ぶりに増加。2008年に起ったリーマン・ショックで負った傷はすっかり癒えたようにみえる。
「GSでは10年ほど前に7000万~8000万円くらい貰っていた」
米ニューヨーク州のトーマス・ディナポリ会計検査官が2015年3月11日に発表した資料によると、「ウォール街」で働く人々の2014年のボーナスは、平均で17万2860ドル(約2090万円)だった(推計、ストックオプションなどによる支給を含まず)。12日付のブルームバーグなどが報じた。ボーナスは前年比2%増と3年連続で前年を上回り、リーマン・ショック前の2007年以来の多さとなった。
金融機関が従業員に支払ったボーナスの総額は、13年に比べて3%増の285億ドル(約3兆4600億円)。一方、金融機関に勤める従業員数も2300人(1.4%)増えた。
なんとも景気のいい話である。1人平均2000万円超のボーナスとなると、日本人の庶民的なサラリーマンからすると羨ましい限りだが、それでも、「驚くほど多い金額ではありませんね」と、国際金融アナリストの小田切尚登氏はいう。
だとしたら、ウォール街に勤める人々にとっては、喜ぶほどではないのかもしれない。
たしかにウォール街の2014年のボーナスは、増加基調こそ維持したものの、増加率は13年の2ケタ増(12年比15%増)から大幅に縮小した。
伸びが鈍化したのは、投資銀行業務やトレーディングなどからの収入の減少傾向が続いていることや、レバレッジを抑制する新たな資本規則への対応、金融当局に対する罰金の支払いが響いたことなどが原因とされる。
「米金融大手のゴールドマン・サックス(GS)あたりは、10年ほど前までは平均7000万~8000万円くらい貰っていましたからね。当時と比べると...」と、小田切氏は話す。
最近の米国経済は「ひとり勝ち」の状況だ。世界経済をけん引してきた中国の成長が伸び悩み、欧州も停滞感が拭えない。日本は上向く兆しはあるものの不透明感が漂ったまま。そんな中でも、米株式市場はダウ平均株価が1万8000ドル前後で推移する好調ぶりで、米金融機関の経営も好調なようにみえていた。
小田切氏は、「米国の金融機関の経営状況は必ずしもいいとは言えません。その点では、(いまの好景気は)反映されていないといっていいでしょう」と指摘する。
もう「1億円」は夢なのか?
米ウォール街の金融マンはもともと高収入で知られるが、それは例えばトレーディング(売買)やブローキング(取り次ぎ)といったマーケット取引や、M&A(企業買収)業務などの「高い収益」を上げる取引や業務によって支えられてきた。
昼夜を問わず働いて高収益を叩き出していた、若きトレーダーらが「1億円を超える成功報酬(ボーナス)を得た」といった話も、かつてはめずらしくなかった。
ところが、「それも難しくなりました」と、前出の小田切尚登氏はいう。原因は、やはりリーマン・ショックにあるようだ。
リーマン・ショックによって、「お膝元」の米国では多くの金融機関が経営破たんし、生き残った金融機関にも公的資金が入った。それによって金融機関への批判が高まり、ハイリスク・ハイリターンで大きな利益をあげる取引への監視の目が猛烈に強まった。
小田切氏は「レバレッジを効かせて、一攫千金を狙うような取引などを金融当局が厳しく監視するようになったことで、儲かる商売から手を引かざるを得なくなりました。簡単にいえば、証券業務中心から銀行業務へと仕事が移ったことで、以前のように大きな収益を上げられなくなったわけです」と説明する。
それによって若いトレーダーなどは以前のように仕事ができず、ポジションを失い、収入も減る。金融機関は業績悪化のため、いまだにレイオフ(一時解雇)も持さない。
リーマン・ショックの痛手から、まだまだ立ち直ってはいないようだ。