東京新聞の論説委員が、「『不安倍増』略して『安倍』?」とタイトルに打ったコラムを書き、物議を醸している。安倍晋三首相に批判的な人たちからは共感の声もあるが、名前をからかうのは子供のいじめと同じではないか、という疑問も漏れている。
東京新聞連載「私説・論説室から」の2015年3月11日付コラムで、この論説委員は、2年ほど前から交代でコラムを書いている。経済部の記者やフランス特派員などを経験しており、現在は、経済担当の委員だ。
「軍靴の音が近づいてくる」安倍政権を批判
この日のコラムでは、過激派組織「イスラム国」の冷酷非道ぶりを指摘する一方、日本においても不気味な不安を感じると明かした。「軍靴の音が近づいてくるような、暗い時代に向かっていく恐怖」だというのだ。
それは、安倍晋三政権がつくり出す雰囲気だといい、「異論を許さず、道理や機微が通じない」「狡猾で専制的」な体質が根にあると断じた。総選挙の勝利で安保政策などが国民の支持を得たというのは詭弁だとし、「子どもの教育に悪いからやめてほしい」と訴えた。
内閣だけの判断で戦争への道を暴走しており、その結果若い血が流れると危惧し、人質事件については、過激派の憎悪を煽り、国民がテロの標的になると指摘した。原発事故の対応についても批判し、事故後も状況は改善しないのに、安倍政権は再稼働などを目指しているとした。
そして、最後にこう締めくくっている。
「息苦しさの中で戯れ言が聞こえた。『不安倍増』、略して『安倍』だと-」
こうした内容のコラムは、ネット上で話題になり、「その通り」「ウマいこと云うなぁ...」と共感する向きもあった。しかし、疑問の声は多く、「人の名前をからかって遊ぶのはいじめの典型手口」「これ、ヘイトスピーチじゃないか」「全国の安倍さんに謝れよ」といった書き込みが相次いでいる。
東京新聞「あくまでも本人が書いたこと」
むしろ、詭弁を弄しているのは、東京新聞の論説委員ではないかとの声も上がっており、「『安心倍増』でも『安倍』になるだろ」「軍靴の音は中国方面から近づいてる」といった反論が多い。
論説委員がどこから「戯れ言」を聞いたのははっきりしないが、ツイッターを見ると、14年夏ごろの官邸前デモなどで、安倍政権を批判する人たちが「不安倍増」を略すれば「安倍」になるという内容のプラカードを掲げていた。その後も、ツイッターで「アンバイ(安倍)!アンバイ!イイアンバイ!不安倍増・安倍晋三!」などと替え歌のようなつぶやきもする人がいて、論説委員はそれらの情報から書いた可能性もあるようだ。
さらには、「晋安倍三」と名前の漢字を並び替えて作ったのではないかという声や、徳川家康が「国家安康 君臣豊楽」の銘文に対し自分の漢字を分断したと怒ったことにあやかったとの見方もあった。
東京新聞のコラムでは、この論説委員は、以前から安倍首相批判を繰り返していた。13年12月11日には、「『ナチスの手口を学んだらどうか』『デモはテロ』という政権」と揶揄し、その2か月前の10月16日には、「ヘイトスピーチに対する損害賠償命令がようやく出たとはいえ、あまりに野放し」として、東京五輪を開く資格があるのか大いに疑問だと述べた。
安倍首相の名前をからかうようなコラムを書いたことについて、東京新聞を発行する中日新聞東京本社に取材すると、論説室では、「本人は、仕事を手放せないのですぐには答えられないと言っています」と答えた。そこで、新聞社としての考えを聞こうとしたが、「あくまでも本人が書いたことですので、後日に本人に聞いて下さい」とのことだった。