花粉症の患者数は、統計によっては3人に1人(環境省資料)とされ、もはや国民病の1つだ。2015年、花粉の飛散数は関東地方で昨年の2倍になると予測され、新たに花粉症になる人も増えている。
にもかかわらず、今なお毎年1600万本近くの苗木が生産されている。花粉が少ない品種の植え付けは全体の10%強にとどまっている。約30年後には新たに植えられたスギが花粉をまき散らすことになる。
花粉少ない品種は10%強しか植えられていない
花粉症被害が訴えられる中、どうしてこれほどのスギが生産され続けているのか。元々スギは育てやすく、成長が早く、建築資材としてのニーズが高い。戦後、木材需要の高まりにこたえるため、国が積極的な造林が進めてきたことが背景にある。
国内に1029万へクタールある人工林のうち、現在もスギは4割以上を占め、林野庁では「日本の林業では最も重要な樹種」(森林利用課担当者)ととらえている。
林野庁のまとめでは、2013年度に植林されたスギの苗木は1581万本にも達する。2000万本を超えていた10年前に比べると減少傾向にあるものの、この数年はほぼ横ばいだ。
花粉症被害の増加を受け、近年は花粉を少なくする品種が開発されているが、13年度ではわずか201万本で、全体の12.7%にとどまっている。一般のスギに比べて花粉量が1%以下の少花粉品種は130種類以上、無花粉のものは2種類が開発されているにもかかわらずだ。
促進のため補助金を増加
なぜ、少花粉や無花粉品種への植え替えが増えないのか。
林野庁担当者はこれまでタネが少なかったことに加え、
「これらの品種が植えられるようになり、まだ10年ほどしかたっていない。木材としての実績がないため、林業関係者の中では足踏みしているところがある」
と保守的な業界に一因があることを指摘した。
一方、全国山林種苗協同組合連合会の担当者は、
「木材の出来に不安を持ったり、コスト面の課題があったりする訳ではない。一般に植えられるようになって時間がたっておらず、業界の中で認知が広まっているとは言い難い」
と食い違いがある。
いずれにせよ林野庁は17年度には少花粉品種などを1000万本に増やすことを目標にしている。現在10%強にとどまっている割合を3分の2ほどに拡大したいという。
新年度予算案にも促進のために補助金を盛り込んだ。これまでは苗木を植え替える際、植樹と整地のみが補助の対象だったが、伐採と運搬にも拡大し、約7割を国と都道府県が負担する。林野庁担当者は「タネは順調に増え、植え替えは当初の予定を上回るペースです。達成も不可能ではありません」としている。それでも実際に放出する花粉が減るには数十年の年月がかかるとみられる。