4年前の2011年3月11日、東日本大震災があった。あの大震災をいろいろな意味で忘れてはいけない。
大震災直後の13日には、政治家が「復興増税」を言いだしたのだ。もちろん、財務省の入れ知恵である。そのとき、あまりに非常識なので、震災直後で人命救助優先であると知りながらも、復興増税を批判した(現代ビジネス、11年3月14日配信)。
増税「ホップ、ステップ、ジャンプ論」
あのような非常時に何を考えているのか、復興増税を考える前にやることがあるだろ、と呆れたものだ。しかし、それは単に増税の始まりであったことがわかると、情けなくなった。
大震災を奇貨として、国民の中に「助けたい」という気持ちがあるのを利用し、復興増税で増税に慣らさせ、その次に「社会保障のために」という口実で消費増税を行い、最後には、財政問題をクリアするために大規模な消費増税を行うという、ホップ、ステップ、ジャンプ論が財務省内で密かに検討されていると聞いて、愕然とした。彼らは様々なルートで仕掛けてきた。
政府の復興構想会議(五百旗頭真議長)は、11年4月14日の議長の「増税」挨拶から始まり、6月25日にまとめた「復興への提言」には、「復旧・復興のための財源については、次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担の分かち合いにより確保しなければならない」とある。
学者も増税に動員された。11年5月23日の伊藤隆敏(東京大学<現・名誉>教授)・伊藤元重(東京大学教授)両氏ら経済学者有志の提言「震災復興にむけて」(日経新聞朝刊)では、「今生きている世代が負担するのか、将来世代が負担するのか」という二者択一になっていて、低成長と人口減少のなかで「次世代にツケを回すのは止めよう」と復興連帯税を提唱している。
「主流」の経済学者の言うことを信じないほうがいい
はっきり言えば、復興増税は経済学の学部・大学院程度で習う、課税平準化理論から間違っている。つまり、一時的な経済ショックがあって財政出動した場合に、増税によってその時点の財政収支を均衡させることは効率性の観点からも望ましくない。むしろ公債発行によって、税収と財政支出を一時的に乖離させたほうがいい。直感的にも、100年に一度のショックがあってそのために財政支出が必要なら、100年国債を発行して負担を100年間で分担したほうがいい。
が、復興増税を提言した経済学者は多い。そのリスト(伊藤隆敏研究室サイト)を見ると、日本を代表する一流学者が顔をそろえている。しかし、学部・大学院レベルの間違いをしたのであるから、お里が知れている。しかも、この提言では、「消費税は生産意欲を減退させにくく、経済成長に与える影響が軽微である」と書かれている。これをひとつの根拠として、昨(2014)年4月からの消費増税も行われている。
ところがどうだろう。消費増税の影響は軽微どころか、大きかった。2014年度の経済見通しでは、政府はプラス1%成長といっていたが、おそらくマイナス1%になる。まったく大外れだ。これだけ外れると、「主流」の経済学者の言うことを信じないほうがいい。大震災以降4年がたった。その間、トンでもないことを言っていた人たちがあぶりだされた。しっかり覚えておこう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。