話に耳を傾けてくれる人は大勢いると知った
そして2014年、当時1年生の部員が手掛けたのが冒頭に登場した「ちゃんと伝える」だ。制作した生徒は、「今伝えたいこと(仮)」をつくった先輩が卒業した後に入部した世代。1年生で最初に向き合ったテーマは、震災ではなかった。だが放送局に入部後「今伝えたいこと(仮)」の映像を見て、「いずれ自分も震災を」との思いはあったという。
津波で壊滅的な打撃を受けた地元は、景色が一変した。変わり果てた姿は、年月がたつと自分の中で「いつもの風景」として目に映るようになった。そこに危機感を感じたのかもしれない。「震災を撮り続けるのは、もちろん周りの人たちに忘れないでほしい気持ちもありますが、自分自身も中学生のころに見ていた地元を忘れてはいけないと感じました」と話す。
映像には仮設住宅や犠牲者を悼む慰霊碑に加えて、相馬高の男子生徒が卒業式の答辞を読んでいる最中、自分の父を震災で亡くしたと明かすシーンがある。この生徒にインタビューした。すると、個人的な話をすべきか直前まで迷ったが、「今いない人」の存在を感じさせるのも必要ではないか、と父の死に触れる決断をしたと明かした。
制作した部員は仙台市で開かれた作品の上映会で、「(観衆が)どんな反応をするんだろうと怖かったけれど、真剣に聞いてくれました」と手ごたえをつかんだ。伝えようとすれば、理解してくれる人はいる。そして自分の中でも、何が起きたかを思いとどめておけると実感した。
一緒に参加した同級生の別の女子部員は、他の上映会で全国を回った経験がある。「初めは『もう忘れられているんじゃないか』との気持ちもありましたが、全然そんなことはなかった。話に耳を傾けてくれる人は大勢いると知ったのです」。
震災直後から作品を見つめてきた渡部教諭は、4年間の中で「伝える」内容の変化を感じ取っているようだ。「当初は『なぜ子どもの声を聞いてくれないのか。怒りをぶつけてやれ』との意識が強かったかもしれません。しかし今では、『大人は敵だ』という主張はしていない。上映会で多くの人と交流するなかで生徒たちも視野が広がり、震災のとらえ方が多角的になってきたのだと思います」と話す。
相馬高校放送局のように震災関連の映像や音声作品を制作し続けている高校の部活動は、今ではほとんどない。だが同校では、部員が「震災を伝える大切さ」を肌で感じているからこそ、自らの意志で今後も制作活動を続けていくはずだ。(この連載は随時掲載します)