病院をかけ持ちして、向精神薬を必要以上に処方されていた生活保護受給者が、厚労省の調査で2012年の1か月だけで5000人以上にも上っている。多くは、不安になってあちこちで薬をもらったケースだというが、こうした「過剰処方」が不正の温床になる恐れもあるようだ。
生活保護受給者は、医療費が公費で全額賄われ、薬は無料で手に入る。こうしたことから、過剰な診療や薬の服用が起きやすいと言われ、厚労省には、会計検査院からも対策を求められていた。
ブロカーや密売組織が暗躍するケースも
厚労省は、2012年11月の1か月だけで不適切な「重複処方」が全国で5177人もいたことをつかんでいたが、15年3月9日に開いた会議でその改善状況を明らかにした。
それによると、実際に重複処方された受給者は6825人おり、「不適切受診」のケースは、7割超にも上る計算になる。各自治体が改善指導をした結果、大半は必要な分だけの処方に改めたというが、14年3月末で976人が未だに「指導中」となっている。「重複処方」が多いのは、東京都609人、北海道408人、大阪府229人、福岡県199人などとなっている。
生活保護の不正受給は年々増え、厚労省の調べで、13年度は10年前の4倍にまで増えて過去最多の4万件超になった。向精神薬の重複処方を巡っても、受給者が不正に手に入れた薬が闇サイトなどで転売される事件が度々発覚している。
12年は、生活保護を悪用して睡眠薬を転売していた神戸市内の無職の女が薬事法違反の疑いで逮捕されている。この女は、5、6病院もかけ持ちし、確認できただけで、2年間で約400万円を荒稼ぎしていたという。
「貧困ビジネス」としては、生活保護者から薬を買い取るブロカーや密売組織が暗躍するケースもあった。
厚労省「根気よく指導するしかない」
2010年には、大阪市西成区のあいりん地区に住む生活保護受給者に病気を装って通院させ、薬を買い取ってネット上で転売していた男らのグループが神奈川県警に摘発されている。このグループは、3年間で2000万円も稼いでいたという。
薬代などの医療扶助は、生活保護費の半分を占めるほど膨らんでおり、特に、過剰処方は不正につながりかねない。こうしたことから、ネット上では、行政に対策を求める声が相次いでいる。「レセプト、カルテを各病院で共有すべし」「生活保護者らにも医療費の負担を」「プリペイドカードで一括管理しろ」といったものだ。
こうした声に対して、厚労省の保護課では、次のように説明する。
「診療情報の共有については、マイナンバー制度で議論が始まっています。おくすり手帳を有効に使うのも1つの手だと思います。医療費の一部自己負担については、受給者には支払える資力がないため、必要な受診が抑制され、かえって健康を害する恐れがあり、現在は検討していません」
厚労省では、大規模なネット販売事件を受けて、10年にも、今回のような重複処方の調査を行い、「不適切受診」がその7割の1797人いたことを発表している。今回は、その3倍の人数と増えていることについては、こう言う。
「受給者の方は、もともと精神疾患があり、薬がたくさんないと不安になって病院に駆け込む人がほとんどです。悪意があるわけではないケースですので、根気よく指導するしかないと考えています」