首相と日銀総裁、「蜜月」は過去のもの? 財政再建や物価上昇率めぐり微妙なズレが

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   「アベノミクス」でタッグを組む安倍晋三首相と黒田東彦・日銀総裁の関係に、微妙な変化が生じている。安倍首相の肝いりで2013年3月に黒田総裁が就任して丸2年。財政再建や物価上昇率2%の政策目標をめぐる両者の考え方の違いが浮かび上がり、「蜜月」関係があやしくなっている。

   「2%に持って行くまでは、『速度と勢い』が必要なのです」。黒田総裁は2015年2月27日の講演でこう述べ、「2年程度」での実現を目指してきた物価上昇率2%の達成を急ぐ考えを改めて強調した。

政府内では、2%早期達成意欲が失われつつある

アベクロがすれ違い?(14年11月撮影)
アベクロがすれ違い?(14年11月撮影)

   原油価格の下落で物価上昇が鈍化し、「日銀が『2年程度』の目標達成時期を延期するのではないか」との観測が強まっていることをけん制する狙いがあったとみられる。

   だが、日銀と足並みをそろえてデフレ脱却に邁進してきたはずの政府内では、2%の早期達成への意欲が失われつつある。14年4月の消費増税後、消費者物価上昇率は前年同月比1.5%(生鮮食品や消費増税の影響を除く)まで上がったが、賃金の伸びが追いつかず、個人消費が失速。2014年7~9月期は想定外のマイナス成長に沈んだ。日銀の2014年10月の電撃的な追加緩和も、株価上昇を演出したものの、急激な円安進行が中小企業や家計を苦しめているとして不評を買った。

   甘利明・経済再生担当相は15年1月の記者会見で、2年程度の目標達成期限について「余裕をもってもいいのではないか」と発言。1月の政府の月例経済報告では、2%の物価目標を「できるだけ早期に」実現するよう日銀に求めてきた従来の文章が突然、「経済・物価情勢を踏まえつつ」と書き換えられた。

日銀の追加緩和への警戒感が出る

   甘利氏の発言や報告の修正は、原油価格下落により2年程度での目標達成が厳しくなった日銀に対し、政府が助け船を出しているようにも受け取れる。しかし、政府や官邸の真意はちょっと違うようだ。政府関係者は「原油安は日本経済にとってプラスにもかかわらず、黒田総裁が2%の物価目標達成を急ぐために追加緩和に踏み切りかねないとの警戒感が官邸にある」と明かす。日銀が早期達成にこだわり、追加緩和に踏み切れば、一段と円安が進んで原油安の恩恵を相殺しかねないというわけだ。4月に統一地方選を控える安倍政権にとって、避けたいシナリオに違いない。甘利氏の発言や月例報告の文言修正は、暴走しかねない黒田・日銀にブレーキをかけるためのメッセージといえる。

   そもそも、安倍首相と黒田総裁の関係がぎくしゃくし始めたのは、14年秋の日銀追加緩和と、首相の消費税率10%への引き上げ延期がきっかけだった。市場では、財務省出身で財政再建論者の黒田総裁が追加緩和に踏み切ったことが、首相に再増税の決断を促していると受け止められた。黒田総裁やその周辺は「追加緩和と再増税は一切、関係ない」と断言するが、当時、再増税の延期を検討していた首相には、黒田総裁が古巣の財務省と連携し、再増税の地ならしをしているように苦々しく映った――という解説がある。

財政再建を進めないと国債が急落するリスクがある

   さらに、両者のすれ違いを感じさせたのが、2月12日の財政諮問会議の議事要旨から、黒田総裁の発言が「削除」された事件だ。関係者によると、黒田総裁は自ら発言を求め、財政再建を進めないと国債が急落(金利は急上昇)するリスクがあると首相に訴えた。ところが、公表された議事要旨にこうしたくだりはなく、「政府の着実な取り組みに期待する」といった無難な発言だけが掲載された。やりとりについても「箝口令が敷かれた」という。

   安倍首相の財政再建の基本的な考え方は「国内総生産(GDP)を増やせば税収が増え、財政も健全化する」というものだ。黒田総裁は首相の楽観的なスタンスに「危機感といらだちを強めている」(関係者)といい、両者の溝は深まっているのは間違いなさそうだ。

   金融政策、財政の両面ですきま風が吹き始めた二人。日銀の独立性を保ちつつ、デフレ脱却に向けた政府・日銀の連携を強化できるのかが改めて問われている。

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