1日の疲れを癒す入浴は、まさに至福のひと時だ。湯船でリラックスするうちにウトウトし、気が付けば眠ってしまっていた...という経験がある人も少なくないだろう。だが、この「眠気」、実は通常の眠気とは異なる場合があり、危ないのだ。
「入浴中に気持ち良くウトウトするのは、実は眠気ではなく、失神寸前の状態なんです」
血圧低下で脳が血流不足に
2015年3月3日放送の「中居正広のミになる図書館」(テレビ朝日系)では、国際医療福祉大学の前田眞治教授がこう説明。「ウトウト」に心当たりのある視聴者も多かったようで、放送後にはインターネット上でも「毎回ウトウトしてるんだけど!」「何度かお風呂で寝てた事あったな。生きてて良かった...」「1分だけって思っても気づいたら意識飛んでる」などと大きな反響を呼んだ。
一体どういうことなのか。前田教授に詳しく解説してもらった。
「胸までお風呂に入ると、数秒後から血圧が急に下がり、その後、数分でさらにじわじわと下がり始めます。この血圧低下によって脳に血流が十分に行き届かなくなった場合、『眠気』として感じられるのですが、実際は失神一歩手前の状態になっているのです」
前田教授によれば、数秒後に起きる血圧低下は水圧による心臓圧迫で、「湯船に胸まで浸かると心臓はぎゅっと強く抱きしめられたような状態になり、通常時よりも拡がらなくなる。すると心臓に入ってくる血液も少なくなり、力強く鼓動できなくなります」。
その後の数分後に下がる血圧低下は湯船に長く浸かっていることで起きる皮膚の血管の拡張だ。血液が皮膚に集まり、脳に行く血液が少なくなるという。これによって脳が血流不足となると、脳活動が低下してしまうそうだ。
40~41度のお湯に10分程度が好ましい
もっとも、大半の人は入浴中に血圧が下がっても脳血流は保たれるという。つまりウトウトしているすべての人が「失神寸前の状態」というわけではなく、「そうしたケースは一部であり、多くはリラックスして(副交感神経が優位になって)ウトウトしている」と前田教授は指摘する。ただし見た目だけでは、どちらなのかは区別がつかないそうだ。
脳の血流不足によって、実際に失神に至ってしまうこともある。これが原因とみられる入浴中の溺死事故も少なくなく、油断は禁物だ。
一般的な失神時には、めまいなどの「前触れ」のあるケースが多いが、前田教授によれば、入浴中の場合はめまいよりも意識低下が先に起きると考えられるという。本人も変化に気づきにくいだけに、注意する必要がある。
眠気を催した場合は、すぐに浴槽から出ることを心がけるといいだろう。湯船に沈み込まないよう浴槽につかえを入れたり、顔の下までふたを閉めたりするのも有効かもしれない。前田教授によれば「40~41度のお湯に10~15分程度」が入浴の目安だという。