ソウルで駐韓米大使が暴漢から顔を切りつけられ、約11センチの大けがを負うという前代未聞の事件が起こった。聯合ニュースによると、容疑者は外交官への暴行など前科6犯。今回は米韓軍事演習に反発して犯行に及んだとみられるが、過去には駐韓日本大使にコンクリート片を投げつけて有罪判決を受けたこともある。この事件をエスカレートさせる形で今回の犯行に及んだ可能性もある。
今回の事件現場でも「独島(竹島)は韓国領土」などと叫んでいたという。一歩間違えれば日本政府関係者が再び被害者になっていた可能性もある。
右あごの上に約11センチ、深さ約3センチの傷を負う
2015年3月5日7時40分頃、ソウル市内の講演会会場で米国のマーク・リッパート駐韓大使が革新系団体代表、金基宗(キム・ギジョン)容疑者(55)に切りつけられた。聯合ニュースによると、大使は右あごの上に約11センチ、深さ約3センチの傷を負い、搬送された病院で縫合手術を終えた。80針縫ったという報道もある。
金容疑者が代表を務める「ウリマダン独島守護」は、反日・反米活動を展開。今回の事件で逮捕された際も、金容疑者は「韓米合同軍事演習反対」「独島は韓国領土」などと日米両国に対する敵意をむき出しにしていた。
国務省ナンバー3「歴史問題は韓中日3か国全てに責任がある」発言が波紋
今回の事件で米国に矛先が向けられた背景には、最近の米国務省高官の発言が背景にあるとの見方もある。
ウェンディー・シャーマン国務次官(政治担当)は2月27日にワシントン行った講演で、
「歴史問題は韓中日3か国全てに責任がある」
と発言。この発言は、韓国側が「従軍慰安婦問題を国内政治に利用している」という指摘だと韓国国内では受け止められた。これに加えて、シャーマン氏が、これまで米高官が好んで使ってきた「性奴隷(sex slaves)」ではなく「いわゆる慰安婦(so-called comfort women)」という表現を口にしたことについても、表現が後退したとして韓国では不興を買っていた。
シャーマン氏は米国務省ナンバー3にあたる。その分発言の影響も大きく、3月4日には韓国の市民団体10団体あまりが会見し、発言が「安倍政権を後押ししている」「自国の利益のために日本をひいきしている」などとして謝罪を求める騒ぎに発展していた。
こういった動きで、金容疑者は急速に反米感情を募らせたのではというわけだ。
疎遠な弟は「社会で認められないから過激な行動をする」と非難
だが、金容疑者の反日感情も相当なものだ。05年には、島根県が条例で「竹島の日」を定めたことをきっかけに、本籍地を韓国が主張する竹島の住所にあたる「慶尚北道鬱陵郡独島里38番地」に移した。10年7月には、ソウルの講演会会場で重家俊範・駐韓日本大使(当時)にコンクリート片2つを投げつけ、隣にいた通訳にけがを負わせている。この事件では、金容疑者は懲役2年、執行猶予3年の判決を受けた。
時事通信によると、金容疑者は今回の事件現場で、
「あのときはテロではなかった。今回はテロだ」
などと叫んでいた。コンクリート投げつけ事件をエスカレートさせる形で今回の犯行に及んでいたことが分かる。
韓国の中央日報では、金容疑者の弟の声を報じている。それによると、兄弟は4~5年も電話すらしないほど疎遠な間柄で、弟は兄を、
「とんでもない行動をして家族を苦しめる」
「社会で認められないから過激な行動をする」
などと非難。こういった異常行動の矛先がいつ再び日本に向いてもおかしくない。
菅義偉官房長官は3月5日午前の会見で、今回の事件の対応策について、
「政府として、在留邦人に対して大使館から注意を呼びかけると同時に、韓国政府に対しても警備強化を要請したところ」
などと話した。