日本郵政は2015年2月18日、オーストラリアの物流大手、トール・ホールディングスを約6200億円で買収すると発表した。6月をメドに全株式を取得し、物流事業などを担う傘下の「日本郵便」の完全子会社とする。
アジアを中心に55カ国に拠点を置くトールを買収することで、海外戦略を加速したい考えだが、世界大手の背中は遠く、「高い授業料」となる可能性も否定できない。
「日本だけにとどまって成り立つ時代は終わりつつある」
「日本だけにとどまって成り立つ時代は終わりつつある」
トール買収を発表する記者会見で日本郵政の西室泰三社長はこう述べ、グローバル企業への大きなステップとなるとの認識を強調した。果たして本当にそうなのか。西室発言を軸に、日本郵便や持ち株会社の日本郵政の課題を読み解いてみよう。
まず、この西室社長の発言からは、食品など他の内需産業と同様に国内物流市場が縮小しているかのように聞こえるが、実は物流事業というのは、アマゾンや楽天などをけん引役とするインターネット通販市場の拡大に伴い、国内での数少ない成長分野だ。
国土交通省がまとめた現時点の最新データによると、2013年度の宅配便取り扱い実績は36億3668万個で前年度比3.1%増加した。対前年度比で4年連続の増加。10年前の2003年度に比べると32%増、20年前の1993年度から見ると実に3.1倍に上る。内需産業でこれほど成長をとげた市場が他にあるだろうか。
2013年度シェアはヤマト46.3%、佐川33.9%、日本郵便は11.9%
では2013年度の各社のシェアはというと、ダントツのヤマト運輸が46.3%、佐川急便が33.9%で、3位の日本郵便は11.9%に甘んじている。2007年に郵政事業を民営化する前の「日本郵政公社」の宅配便シェアが6%程度だったことを思えば倍増しているように見えるが、実は2010年に日本通運の「ペリカン便」と統合した結果であって、少なくともヤマトなどからシェアを奪い取っているわけではない。
一方で、電子メールの普及とともに伝統産業とも言える郵便物は減り続けている。2013年度は前年度比1.5%減の185億通。2010年度に比べ1割減っている。とりわけ年賀状が深刻だ。全国津々浦々にポストを置き、はがき1枚52円で集配する郵便物というのは実は4~9月の上半期は赤字だが、下半期の年賀状によって一気に通年黒字に持ち込むビジネスモデルなのだ。しかし2014年用年賀状の総発行枚数は34億1000万枚で、ピークの2004年用から25%も縮んだ。この先も減ることはあっても増えることはあるまい。郵便物に限れば「日本だけで成り立つ時代は終わりつつある」かもしれないが、電子メールが瞬時に世界を飛び交う以上、世界に出たところで「成り立つ」ことは困難だ。
トールの買収価格は割高との指摘
トール買収によって日本郵便と合わせた年間売上高は247億ドル(約2兆9400億円)となり、世界5位に浮上するという触れ込みだが、トールはもともと世界21位(77億ドル)の企業でしかない。なんだかんだ言って日本の伝統産業である年賀状のインパクトはいまだ大きいし、トールへの過剰な期待は禁物だ。それに、5位になったところで、トップのドイツポストDHL(711億ドル)など世界大手の背中が遠いことに変わりはない。
それでもなぜ、西室社長は「グローバル化の第一歩」などと今回の買収を喧伝するのか。15年秋に控える日本郵政の株式上場対策に他ならない。利益を挙げる会社と見られにくい傘下の日本郵便を、買収で「補強」して投資家にアピールするためだ。しかし、トールの買収価格は買収発表直前の株価に49%のプレミアム(上乗せ)を付けた。TOB(株式の公開買い付け)のプレミアムの平均はざっくり30%台であることを思えば割高と指摘されても仕方ない。西室社長の発言にはよくよく注意する必要がありそうだ。