可能性は低いが、ゼロではない
戦後の国民生活の困窮という犠牲を払い、一たんは改善した国の財政だが、バブル崩壊以降に繰り返された財政出動と、少子高齢化の進展による社会保障費の増大で「国の借金」は再び急増。2015年3月末には1100兆円に迫ろうとしている。
時世が違うとはいえ、国の借金がみるみると膨らんでいることに変わりはない。それでも多くのエコノミストらは「預金封鎖」の可能性は限りなく低いとみている。
とはいえ、国際金融アナリストの小田切尚登氏は、「預金封鎖が現実に起る可能性は低いですが、ゼロではないですね」と話す。
「たしかに、すぐにも金利が急上昇する(国債が暴落する)可能性は考えにくいです。しかし、たくさんの国債が発行できるのは、預金がいわば担保としてあるから。つまり、何かあったら(預金に)手を付けるということです」と説明。「(安全は)絶対ではないということを知っておくべきです」と、警鐘を鳴らす。
もともと、日本人は株式や債券よりも安全・安心な預金を好む。日本銀行の家計の金融資産統計などによると、2014年9月末時点の家計の金融資産総額は1654兆円。一方、個人預金の残高は約418兆円(外貨預金を除く)にのぼり、ほぼ半分にあたる。
ただ、預金封鎖が発動されるきっかけはわからない。株式や債券、また海外投資などに預金が急速にシフトすることで銀行に取り付け騒ぎが起こるかもしれないし、「(国債の保有割合が)わずか5%とはいえ、外銀などが何かのきっかけで大量に売り浴びせれば、それが引き金になることもあり得ないことではないのです」(小田切氏)。
では万一、預金封鎖が発動されたら、最も貧乏くじを引くのはどんな人だろう――。預金の多い人ほど多くの預金が減るのだから、お金持ちは預金封鎖に備えて、あらかじめ海外に資金を動かしてしまう可能性がある。
そうなると、いざという時のため、子どものため、将来のためといって、せっせと蓄えているような人、たとえば老後資金を溜め込んでいるような人が最も貧乏くじを引くことになるのかもしれない。
もっとも、「預金封鎖」は借金から逃れる劇薬のようなものだ。ソフトランディングするには、比較的緩やかなインフレのほうが好ましいという見方も有力だ。物価が上がれば、借金の返済は楽になる。アベノミクスも、借金の対処法としてインフレを念頭に置いているのは間違いない。