いわゆる従軍慰安婦をモチーフにした像や記念碑が海外で次々に設置されている問題で、日本政府が重い腰をあげつつある。
在米日本人が米カリフォルニア州グレンデール市の慰安婦像の撤去を求めてロサンゼルスの州裁判所に起こしていた訴訟で、裁判所は原告の訴えを事実上退ける方針を原告と被告に伝えた。裁判所側は、方針を伝える文面の中で「日本政府の支援がみられない」などと指摘しており、原告は日本政府の「大胆な動きが必須」だと訴えている。こういったことを背景に、菅義偉官房長官は政府が原告側と「緊密に連携をとっている」ことを明らかにしたが、日本側が反転攻勢できるかは未知数だ。
原告側「この裁判において勝利するためには、日本政府の大胆な動きが必須」
訴訟では、原告側は13年7月にグレンデール市議会が像の設置を決めた際、「日本軍の性奴隷」といった一方的な内容の碑文の文言について説明がなかったことを問題視。これに対して被告の市側は、原告側の主張の根拠はあいまいで、今回の訴訟が「乱訴」にあたると主張していた。
原告のひとりが「米国に正義はあるのか」と題して産経新聞に寄せた「抗議文」によると、裁判所は15年2月23日に市側の主張を採用する方針を伝えてきた。この方針に沿った判決が3月24日に出る予定で、原告側は控訴する方針だ。
「抗議文」によると、裁判官からは
「この裁判に対して日本政府の支援がまったく見られない」
といった指摘があったといい、原告側は
「この裁判において勝利するためには、日本政府の大胆な動きが必須」
と訴えている。
この点について、菅義偉官房長官は2月25日午前の会見で、
「我が国が政府として個別具体的なコメントは控えるべきだろうと思う」
と前置きしながらも、実際はかなり踏み込んだ。
慰安婦像設置は「政府の立場とまったく相容れず、きわめて残念」
まず、米国での慰安婦像や記念碑の設置を
「我が国政府の立場やこれまでの取り組みとまったく相容れないものであって、きわめて残念なことと受け止めている。現地の在留邦人の方も、おそらく同じ思いで訴訟に踏み切ったのだと思う」
などと非難。米国社会を
「多様な民族、文化的バックグラウンドを持った住民の方々が平和と調和の中で共生する社会」
だと表現し、それと対比する形で慰安婦像の設置に重ねて違和感を示した。
「市民生活の中に、慰安婦をめぐるような出身国間によって意見の全く異なる案件を持ち込むことは適切ではない」
その上で、訴訟については
「原告の関係者含め、在留邦人との間では、我が国の総領事館幹部を通じて、緊密に連携をとっているということは事実」
と説明した。
ただ、この「緊密な連携」が、原告側が求めている「日本政府の大胆な動き」と一致するとは考えにくい。原告側の「抗議文」では、(1)河野談話の破棄(2)日本の名誉を守るために働いている人への積極的な支援(3)「従軍慰安婦は性奴隷ではなかった」という声明を公式に出すこと、を求めている。特に河野談話を日本政府が破棄する可能性は皆無に近く、控訴審に向けた戦略作りには紆余曲折がありそうだ。