海外援助新大綱は「安倍カラー」 中国に対抗、支援対象国益で判断

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   政府が「安倍カラー」を前面に出した「開発協力大綱」を決定した。従来からの「政府開発援助(ODA)大綱」を改定し、名称も変更したもので、安倍晋三首相が掲げる「積極的平和主義」を踏まえ、支援の対象を従来より広げたのが特徴だ。

   「非軍事目的」との限定付きながら、他国軍などへの協力を容認したほか、援助を戦略的に活用する。民生分野に限ってきた日本の援助政策の大転換点といえ、軍事目的への転用にどう歯止めをかけるかなど、課題が残る。

「非軍事的協力による平和と繁栄への貢献」を新設

「積極的平和主義」を色濃く反映(14年11月撮影)
「積極的平和主義」を色濃く反映(14年11月撮影)

   大綱の改定は2003年8月以来12年ぶりで、2月10日の閣議で決めた。

   新大綱は、普遍的価値の共有、貧困や災害などの地球規模課題の解決のためODAを「積極的・戦略的」に活用する方針を打ち出した「国家安全保障戦略」(2013年12月に閣議決定)を受けたもの。冒頭、「積極的平和主義の立場から、国際社会の平和と安定及び繁栄のため一層積極的な役割を果たす国家として国際社会を力強く主導していかなくてはならない」と、基本姿勢を謳っている。代わりに、これまでの大綱にあった「日本国憲法の精神にのっとり」との文言は落ち、「安倍カラー」を明確に打ち出したものになった。

   具体的には、大きく3本柱からなる。まず第1に、軍、軍関係者がかかわる支援も非軍事目的に限定して認めること。新大綱の基本方針として「非軍事的協力による平和と繁栄への貢献」との項目を新設し、「相手国の軍または軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」とした。

重要な国と結びつきを強めるのに活用する狙い

   第2に、途上国に限っていた支援対象国を、国民所得が一定水準以上に経済成長を遂げた「ODA卒業国」にも拡大。「開発ニーズの実態」に応じて援助を再開できると規定した。

   第3に、「国益の確保に貢献」との表現も初めて明記し、日本の利益につながる協力を進め、国際貢献との両立を図ることを打ち出している。

   第2、第3については、援助をテコに影響力を拡大する中国への対抗の意味合いが強いとされる。「短期的な利益を追求するあまり、援助対象を安易に選別すれば、人道を重視してきた日本の援助への国際的信頼を傷つけかねない」(NGO関係者)との懸念は残る。ただ、「むしろ今まで、外務省の『戦略性のなさ』は国際的にも際立っていたから、どこまで露骨にやるかは議論があるが、一定の戦略性は当然」(経済官庁幹部)との指摘がある。

   「ODA卒業国」ということでは、ハリケーン被害に苦しむカリブ海のバルバドス、トリニダード・トバゴなどや、廃棄物処理など都市問題を抱える中東湾岸諸国が念頭にあるといい、国連安全保障理事会常任理事国入りやエネルギー安全保障をにらみ、重要な国と結びつきを強めるのに活用する狙いが透けて見える。

   3本柱のうち、議論になるのは第1の他国軍への協力だ。これまで、2001年にセネガルの拠点医療施設と位置付けられた軍病院の改修を支援した例がある程度で、実質的には今回が「解禁」になる。「紛争後の復旧や復興など非軍事目的の活動に軍が重要な役割を果たすようになってきた」(岸田文雄外相=10日の会見)というように、「軍隊が重要な民生活動を担っている場合は、一律に排除するのは不合理」(外務省筋)との判断だ。政府は災害救助を実施する軍への物資支援や、軍関係者への民主化研修といったものを想定しており、他国軍への支援実施前だけでなく実施後も定期的に現場を視察するなど監視を継続する方針も示している。

軍に提供した物資や資金は軍事転用される心配

   ただ、「実質的意義」に基づき個別に判断するので、どこまでは認めるかの線引きは曖昧だ。例えば、新大綱も「重点課題」に挙げている「海上保安能力を含む法執行機関の能力強化」では、政府は1014年夏、ベトナムに巡視船に転用できる中古船6隻をODAで供与すると決定したが、そのためにベトナムは軍に属していた海上警察を軍都別組織にした。これが、「新大綱では、......直接軍に支援ができる」(2月11日「朝日」朝刊)という見方と、「相手国の軍と海上警察が一体となっている場合は軍事転用が疑われるため、(供与要請に)応じられないという」(同日付「読売」朝刊)と、大手紙の記事でも見方が分かれるほどだ。そもそも、高度な機密性を持つ軍に提供した物資や資金が軍事転用されていないか、十分チェックできる保証はない。

   実は、今回の新大綱とは別に、他国軍へのより直接的な援助の検討が着々と進んでいるとされている。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国などの軍に対し、海洋安保のための防衛装備品を防衛予算で援助する仕組みを作ろうという構想で、2014年4月に武器輸出3原則を見直したことを踏まえ、防衛省の有識者検討会で議論されている。政府は早ければ2016年度予算で実現したい考えという。これはODAとは別の枠組みだが、実態として、ODA・開発協力と防衛予算が一体として他国軍を支援していくことになり、新大綱と相まって、今後、議論を呼びそうだ。

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