喫茶店やレストラン・飲食店、ホテルなどで流れているBGMが、オフィスに広がっている。音楽が流れることで、職場のコミュニケーションを促進したり、仕事へのメリハリをつけたり、また働く人のメンタルヘルス対策のひとつとしても取り入れられている。
かつては、音楽を聴いて仕事をすると、「集中力に欠ける」「手元がおろそかになる」などといわれたものだが、そんなことはもう昔の話らしい。
「予防の観点から音楽を入れる企業が増えています」
最近の職場は、社内でさえメールでのやり取りが増えて、社員同士の会話も減っている。オフィスに響くのはパソコンをたたく音や、コピー機やプリンターといった、無機質なOA機器の音くらい。静かすぎて、かえって働く人の気持ちが沈みがちになったり、雰囲気が暗くなったり、アイデアが生まれなくなったりする。
また、現在の職場では「うつ病」などの精神疾患にかかる人が増えている。厚生労働省によると、精神疾患による労災認定件数は年々増加しており、2009年度に234件だったのが、10年度は308件、11年度が325件、12年度には475件と3年連続で過去最高を更新。12年度は、09年度と比べてじつに2倍超にも増えた。音をめぐる職場環境の現状も、こうした傾向と無縁ではないかもしれない。
そんなこともあって、2015年12月に施行される予定の改正労働安全衛生法には、「ストレスチェック制度の創設」が盛り込まれた。企業(50人以上の社員を抱える事業所)が働く人の心理的な負担の程度を把握するため、医師や保健師などがストレスチェックを行うことが義務づけられる(50人未満の事業者の場合は努力義務)。
うつ病などに陥る要因を定期的に調べて、その検査の結果、働く人の希望で医師による面談指導を実施。企業は医師から意見を聞き、必要に応じて職場転換や業務の見直し、労働時間の短縮など適切な就業上の措置を講じなければならなくなる。
有線放送での音楽配信を手がけるUSENは、「ストレスチェックの義務化に伴い、予防の観点から音楽を入れる企業が増えています」と話す。
同社は、イージーリスニングや「癒し」の効果が見込めるとされる自然音から、ジャズやクラシック、J‐POPや洋楽などによる明るく爽やかなサウンドで、職場環境の改善にひと役買い、快適なサウンドでオフィス空間をデザインする。
ストレスを和らげ、メンタルケア効果が見込めることはもちろん、OA機器などの騒音を軽減して会話を守るマスキング効果や、来訪者に向けたイメージアップも狙える。
BGMが職場で働く人の気持ちを、ある時は落ち着かせ、ある時は奮い立たせ、またある時は集中力を高めたりして、仕事に向かわせるというわけだ。