肥満は生活習慣病のリスクを高め、心筋梗塞や脳卒中など、死につながるおそろしい病気を招く「万病のもと」だ。しかし最近の研究結果から、肥満より危ないのは「運動不足」だということがわかった。
1日20分の早歩きでリスク減
英ケンブリッジ大学の研究チームは運動と死亡リスク、および肥満との関係を探るため、12年間にわたってヨーロッパの334,161人の男女を対象に調査をした。研究チームは参加者の身長、体重、腹囲を測定し、BMI値(肥満度)を算出。BMI値が18.5~25未満の人は標準体重、25以上30未満は過体重、30以上は肥満とした。また、日常生活でどのくらい運動をしているかを調べたうえで、参加者を「運動している」「そこそこ運動している」「あまり運動しない」「運動しない」の4つのグループに分類した。そのうち「運動しない(座り仕事が中心で、休日にもほとんど体を動かさない)」人は22.7%だった。
研究者らは、1日20分の早歩き(消費カロリー90~110kcalに相当)をすると、「あまり運動しない」もしくは「運動しない」人々の死亡リスクが16~30%減少すると見ている。また、「運動しない」グループが、「あまり運動しない」レベルになるだけで、死亡数は7.35%減少すると推定している。
一方、肥満の人のBMI値を下げることによる死亡数の減少は3.66%にとどまるというから、その差は2倍。肥満よりも運動不足の方が深刻だということがわかる。
これを2008年のヨーロッパにおける死亡者に当てはめて分析したところ、死亡した920万人のうち、肥満が原因で亡くなったと考えられるのは337,000人であるのに対し、運動しないことが原因と考えられるのは、その約2倍にあたる676,000人にのぼったという。
毎日は難しくても、できることから始める
研究を実施したUlf Ekelund教授は、「毎日、ほんの少し運動をするだけで健康促進になる。1日たった20分でも効果はあるが、それ以上が望ましい。多くの健康効果が実証されているのだから、運動の重要性を理解し、日常生活に取り入れてほしい」とコメントしている。
日常的に運動している人にとっては「たったの20分」だが、ほとんど運動しない人にとっては、20分でもきついし、毎日続けるのはハードルが高い。しかし、早歩きをするだけで命を縮めるリスクを避けられると思えば、運動不足解消のモチベーションになるだろう。いつもより少し歩幅を広げ、背筋を伸ばしてリズミカルに歩くなど、できることから始めたい。
[アンチエイジング医師団取材TEAM/監修:山田秀和 近畿大学医学部 奈良病院皮膚科教授、近畿大学アンチエイジングセンター 副センター長]
参考論文
Physical activity and all-cause mortality across levels of overall and abdominal adiposity in European men and women: the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition Study (EPIC)
DOI: 10.3945/ajcn.114.100065
アンチエイジング医師団
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