日本人の人質殺害をはじめ、残虐行為をいまだに繰り返している過激派集団「イスラム国」。その表記をめぐっては、「IS」「ISIL」「ISIS」などとマスコミの間でも乱立気味だ。
そんな中、トヨタのミニバン車名(Isis)が、偶然「ISIS」と重なっていることに注目する人も現れた。米国の企業でも、社名(銘柄コード)が同一となり、思わぬ余波を受けている可能性が指摘されるところが出てきた。
車名の由来は「古代エジプトの豊穣の女神」
国内では「イスラム国」の名称について、NHKが「過激派組織IS=イスラミックステート」へとこのほど変更したのをはじめ、朝日新聞がカギかっこを付けた「イスラム国」、一方政府は英文の「Islamic State Iraq and Levant」の頭文字をとって「ISIL」を使用している。
もうひとつ、「ISIS」という呼び名がある。「Islamic State Iraq and Syria」の略で、米CNNやCBSニュース、英ガーディアンなどが「過激派集団ISIS」との表現を用いている。国内の大手メディアはあまり使っていないようだ。
「ISIS」は、偶然にもトヨタ自動車が販売している車のブランド名と重なる。2004年9月発売の「Isis(アイシス)」だ。国内のみの販売で7人乗りのミニバン。トヨタの公式サイト上には所有者の声として、年配者や女性の乗り降りや、狭い駐車場での利用に便利とある。総合満足度は5点満点で4.7点と高い。
「アイシス」の車名の由来について、トヨタは、
「古代エジプトの豊穣の女神のことです。乗る人全ての心を豊かにする車という意味です」
と説明している。女神アイシスは、日本語では「イシス」とも訳される。無論、「イスラム国」とは何の関係もない。だがインターネット上では、名称の「一致」を指摘する声が少なくない。ツイッターには「これこそ風評被害だわ」とトヨタに同情を寄せる人がいる一方、「イスラム国(ISIS)が話題になるといつもトヨタ アイシスが頭に浮かぶ」という意見、さらには、トヨタへの配慮から「ISIS」ではなく「イスラム国」の呼称を使い続けている日本メディアが多いのではないか、と勘繰る見方まで出てきた。
トヨタに、「イスラム国」が原因で「アイシス」に何かしらの悪影響が出ているか、さらに「メディアによる配慮説」が事実かを広報担当に電話取材したが、コメントのしようがないとのことだった。
米バイオ医薬品大手の銘柄コードも「ISIS」
海外にも、「イスラム国」に迷惑をこうむった企業があるようだ。米ウォールストリートジャーナル日本語電子版は2014年6月16日付記事で、米バイオ医薬品大手「アイシス・ファーマシューティカルズ」のケースを紹介している。
同社はハイテク銘柄が多い米ナスダック市場に株式を上場している。米株式市場では、上場企業を識別するためにアルファベット4文字以下の「ティッカーシンボル」という銘柄コードを付ける。同社の場合、そのものズバリ「ISIS」だ。企業名であり、なんら不思議はないだろう。
記事によると、14年4月30日~6月10日まで28%上昇した株価は、6月11日に6%安、12日も2%安となり、13日には終値こそ4.31%高と反発したが一時は2.8%安と下げていた。連日の下落に結び付くような同社関連の悪材料はなかったのに、だ。だが6月11日は「別のISISに関するニュース」があった。「イスラム国」がイラク第2の都市モスルを掌握し、首都バグダッドに迫っていた。この脅威から「投資家が無意識に米国のアイシス株を敬遠したのだろうか」と記事は問いかけ、金融論を専門とする米フロリダ大のジェイ・リッター教授の「その可能性はある」というコメントを紹介している。ティッカーシンボルが短期的には株価にプラス、マイナスの両面で極めて大きな影響力をもちうるというのだ。
アイシス株は以後上昇し、2015年1月12日には73.34ドルに達した。だがその後値下がり傾向に転じ、2月9日には今年の最安値となる58.83ドルまで下落した。この日は月曜日だったが、前週金曜日の2月6日に「イスラム国」は、人質としていた米国人女性が死亡したと発表していた。もしこの動きが投資家の心理が何かしらの影響を及ぼしていたとしたら、アイシス社にとってはとんだとばっちりとしか言いようがない。