トヨタ自動車が2017年から自動車の世界ラリー選手権(WRC)に復帰すると正式に表明した。WRCはフォーミュラ・ワン(F1)と並び、国際自動車連盟(FIA)が主催するモータースポーツの最高峰で、とりわけ欧州で人気が高い。
日本メーカーとしては、スバル(富士重工業)が2008年にワークス活動から撤退して以来9年ぶり、トヨタとしては1999年以来18年ぶりのWRC復帰となる。トヨタのWRC復帰は、フォルクスワーゲン(VW)やシトロエンなど欧州のライバルメーカーに刺激となるだけでなく、トヨタの商品開発にも影響を与えるのは確実だ。
欧州ではWRCの戦績がメーカーの評価につながり、販売に影響
2015年1月30日に東京都内で開かれたモータースポーツ活動の発表会で豊田章男社長が公表した。WRC参戦のベース車両は、欧州などで販売している小型車「ヤリス」(日本名ヴィッツ)。エンジンは現在のレギュレーションに基づき、1.6リッター直噴ターボを搭載。トヨタはドイツに拠点を置くモータースポーツ子会社「トヨタモータースポーツ有限会社」(TMG)がヤリスベースの専用マシンを開発し、今年から本格的なテストを実施する。
WRCは欧州発祥のモータースポーツで、イベント数も圧倒的に欧州が多い。現在はシトロエン、フォード、VWの欧州勢に韓国のヒュンダイが参戦。過去にはアウディ、プジョー、ランチアなど名門メーカーが続々参戦し、しのぎを削った。欧州ではWRCの戦績がメーカーの評価につながり、販売に影響するからだ。
1990年代から2000年代初頭にかけては日本からトヨタ、スバル、三菱自動車が参戦し、WRCを席巻した。トヨタはセリカとカローラ、スバルはレガシィRSとインプレッサWRX、三菱はギャランVR-4とランサーで参戦。マニファクチャラー(メーカー)の優勝回数はスバルが通算47回、トヨタが43回、三菱が34回で、年間でもスバルが1995年から1997年まで3年連続チャンピオン、トヨタも1993、1994、1999年と王者に輝くなど黄金時代を築いた。しかしトヨタはF1参戦を機に1999年を最後にWRCから撤退した。
現在のWRCはVWとシトロエンの2強状態
豊田社長は会見で「多くの方がトヨタはいつラリーに戻ってくるのだと問うてくださった。そうした良い記憶が残っているうちにラリーに復帰したいと考えた。ただし、これは復帰ではなく、ゼロからの参戦というのが現実だ」と述べた。
ラリーカーは市販車をベースに開発し、舗装路から雪道まで閉鎖した一般公道を走るため、その技術は市販車に応用されることが多い。近年はその逆で「市販車向けに開発した技術がラリーカーに使われることも多い」(メーカー関係者)という。いずれにせよ、トヨタがラリーカーを開発し、WRCに参戦することは、市販車にも何かしらの影響を与えるのは間違いない。豊田社長は「お客様が笑顔になり、社会に貢献できる、もっと良いクルマを作り、提供していきたい」と力を込めた。
現在のWRCはVWとシトロエンの2強状態が続いており、2013年にWRCに復帰したVWはポロをベースとしたマシンで2年連続チャンピオンに輝いている。世界販売台数ではVWと首位争いをするトヨタといえども、モータースポーツの世界でトップを争うのは至難の技だ。マシンの開発のみならず、2017年の参戦ドライバーの獲得競争も見ものだ。
日本でもWRCはスポーツ専門チャンネル「JSPORTS」が放映するほか、専門雑誌も発行されるなど根強いファンがいる。トヨタが参戦すれば、WRCが再び北海道で開催されるのも夢ではない。トヨタの復帰が今から楽しみだ。