海外の個人投資家や富裕層らが、東京都内の高級マンションやタワーマンションを購入するケースが増えている。
その多くを中国系の富裕層が占めているが、日本国内では住宅ローンが組めないので、1億、2億円という大金を、キャッシュでポンッと払っていくようだ。
割安感高まり、家賃収入にも期待
海外の個人投資家や富裕層らが東京都内の「億ション」やタワーマンションに、積極的に「投資」する背景の一つは「円安」だ。東京都心の不動産価格は、アベノミクスがはじまった2012年末からの2年間に約2割上がったが、円相場が対ドルで4割近く下がったため、海外投資家からみると、物件価格の割安感が高まった。
国土交通省がまとめた2014年10月時点の地価動向報告によると、3か月前から地価が下落した地区は07年10月に調査を始めてから初めてゼロだった。地価は全国的に下落幅縮小が続き、2014年には東京、名古屋、大阪の3大都市圏で商業地・住宅地とも上昇に転じた。
こうした東京の地価上昇は、少なくとも東京五輪が開催される2020年までは続くとみられている。つまり、キャピタルゲインが狙えるというわけ。ある住宅アナリストは、「ほとんどが2020年までの短期保有の意向のようです」という。
また、最近の東京都心のビル空室率は5%台半ばと6年ぶりの低さで、需給関係は引き締まり傾向にある。賃料水準も良好で、インカムゲイン(家賃収入)も期待できる。いずれにしても、投資物件としての魅力は十分というわけだ。
加えて、中国の不動産バブルが弾けかけており、資産をなるべく早く付け替える必要がでてきたこともある。
住宅ジャーナリストの櫻井幸雄氏は、「中国系でも、大陸の人はまだ少ないです。目立つのは台湾や香港の人」と指摘。たとえば、バブルに沸いている台湾。「なかでも台北では『億ション』が急増して、そろそろ頭打ちの観があります」と話している。
「2億、3億と、高い物件ほどよく売れています」
どうやら、東京都内の「億ション」が中国系の富裕層に売れていることは、確かなようだ。実際に、物件への問い合わせ件数で約2割が中国人を含む外国人というケースもみられた。
前出の住宅アナリストは、「知り合いの台湾人は、都内のマンションを新築と中古とあわせて6戸も購入しました」という。「物件の購入金額も高いですが、日本はプレミアム住戸(タワーマンションなどの最上階から3層程度にある住戸)の価格と、それ以外の一般住戸の価格の差が小さく、結果的にプレミアム住戸の価格が『割安』にみえます。それもあって(タワーマンションなど)が、よく売れるんです」と説明する。
櫻井幸雄氏も、「東京の物件は、世界的な都市と比べても割安感があります。1億円は当たり前。2億、3億と、高い物件ほどよく売れています」という。外国人投資家などが求める物件は、比較的広めの100平米超の物件が多く、それも価格の押し上げ要因の一つとされる。
中国人に人気なのは、青山や赤坂、麻布、六本木などで、最近は東京五輪の開催を背景に価格の値上がりが期待できる品川や有明、豊洲などの湾岸エリアが加わった。さらに東京だけでなく、福岡市内や札幌市内でも規模は小さいものの似たような現象が起こっている。
最近は、三井不動産リアルティや住友不動産販売のように、中国人をはじめ海外の個人投資家や富裕層向けにホームページを用意したり、専用の相談窓口を設けたりして、外国人の取り込みに力を入れる販売業者も出てきた。
とはいえ、こうした販売業者はまだ、ごく一部にすぎず、「売る側」はそれほど熱心ではないようだ。前出の櫻井氏は「やっぱり日本人に買ってもらいたいという気持ちがあるようですよ」とも話す。
実際には、外国人がマンション管理組合の運営に参加してもらえる可能性は低く、また生活慣習の違いなどから他の住民とのトラブルに発展するケースもないとは言い切れない。最近は外国人の購入者が多い物件を避ける日本人が少なからずいるともいわれる。