社会保障費を削減せざるを得ないのはなぜか 2015年度予算案から見えてくる政府の懐事情

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   消費税が8%に上がり、私たちの税金の使い道が気になるところだが、新聞やテレビのニュースを見ても政府予算の話はわかりにくい。2015年度政府予算案は1月26日に開会した通常国会で与野党の論戦が始まったが、ここで一般会計の税収と歳出の推移を把握しておくと、日々のニュースが理解しやすい。

   日本の財政は高齢者の進展で年金や医療・介護費など社会保障関係費が毎年約1兆円ずつ増えている。8%はもちろん、10%に消費税を上げても必要な経費を穴埋めできないのが実態で、不足分は国債を発行し、補わざるを得ない状況が続いている。

収支のバランスが崩れるのは、バブル崩壊後

   安倍晋三首相は1月14日、首相官邸で記者団に、

「本日、新年度予算案を閣議決定した。元気で豊かな地方の創生、子育て支援など社会保障の充実に最大限取り組むとともに、国債発行額は当初予算として6年ぶりに40兆円を切ることができた。経済の再生、財政健全化の同時達成に資する予算になった」

と述べた。しかし、これだけでは、何のことかわかりにくい。

   私たちが政府に納めた税金が毎年どれくらいあり、政府がそれを何にどれくらい使っているのか? まずは一般会計の税収と歳出のグラフ(1)(財務省「我が国の財政事情」より)を見てみよう。歳出とは政府が年金や医療・介護費など社会保障関係費や公共事業費、防衛費、文教費、地方交付税交付金(地方への仕送り)などに使ったカネのことだ。

   戦後、高度経済成長を経てバブル経済が崩壊するまでは、税収の伸びに歳出が連動する形で右肩上がりを維持していた。収支のバランスが崩れるのは、バブル崩壊後だ。税収は消費税を導入した直後の1990年度、60.1兆円と戦後のピークを記録。それがバブル崩壊後の1992年度には54.4兆円に落ち込み、それ以降の「失われた20年」は、税収が40兆円台から50兆円台前半で低迷。リーマンショック後の2009年度には38.7兆円まで税収が落ち込んだ。

地方交付税や文教・科学振興・防衛費などの合計はあまり変動がない

   一方、一般会計の歳出はバブル崩壊後も、景気対策の公共事業の積み増しや高齢化の進展で右肩上がりを続けた。歳出の内訳をグラフ(2)(同)で見ると、バブル期の1990年度に69.3兆円だった歳出は2000年度に89.兆円、2015年度は96.3兆円に増えた。地方交付税や文教・科学振興費・防衛関係費などの合計はあまり変動がないが、年金や医療など社会保障関係費が急増しているからだ。国債の元利払いに充てる国債費もかさんでいる。

   とりわけ、高齢者の増加とともに増える社会保障関係費の増加は著しい。1987年度に10兆円台に乗った後、2005年度に20兆円、2014年度に30兆円の大台を突破した。予算編成に当たる財務省は「日本人の平均寿命が伸びるのはうれしいことだが、年金や医療費の支出が増えるのは国家にとっては負担となる。必要な支出をすべて賄えれば理想的だが、なかなかそうはいかないので、予算を絞り込まざるを得ない」と漏らす。放っておけば、高齢者の増加で増え続ける一方の社会保障関係費にカンナをかけ、少しでもムダな予算は削減せざるを得ないというのだ。政府はこれを「歳出の効率化」と呼んでいる。

消費税8%に引き上げても税収はバブル崩壊直後の水準

   安倍首相の発言通り、政府は2015年度予算案で「消費税増収分を活用し、子育て支援と医療・介護分野の充実を可能な限り実施する」と社会保障の充実を目指しているが、「介護サービス料金(介護報酬)をメリハリをつけて引き下げ、介護保険料の上昇を抑制、利用者負担を軽減する」と、涙ぐましい削減努力もしている。

   消費税が8%に上がった効果(1兆6860億円の税収増)もあり、2015年度の税収は54.5兆円となる見込みだ。この結果、安倍首相が語るように、新規国債発行額(建設国債=4条公債と、赤字国債=特例公債の合計額)は36.9兆円と、40兆円を切った。税収54兆円台は近年では久々の好循環を印象づけるが、消費税を8%に引き上げてもバブル崩壊直後(1992~1993年度)の水準に過ぎないのが現実だ。


※文中の図表2枚は下記の財務省のサイトにある資料「我が国の財政事情」から
 http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2015/seifuan27/04.pdf 

(1)=2ページ、「一般会計税収、歳出総額および公債発行額の推移」
(2)=7ページ、「一般会計歳出の主要経費の推移

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