過激派組織「イスラム国」をめぐる取材で、朝日新聞が同業者から批判される形になっている。外務省が危険だとして退避を呼び掛けているシリア国内に複数の記者が入って記事を掲載したためだ。かつて天声人語を担当した記者が、ツイッターで「政府広報じゃないんだから、もっとジャーナリズムしませんか」などと煽ったこともあって、朝日批判が加速している。
ただ、これまでも朝日以外のメディアが、外務省が退避を呼び掛けている地域から記事を書くケースは多々あり、こういった批判が結果として自らの手足を縛ることになる可能性もありそうだ。
「移動経路に『イスラム国』の影響が及んでいないことを確認」と説明
朝日新聞では、イスタンブール支局長が1月24日朝刊の「時時刻刻」をシリアの首都、ダマスカス発で執筆したのに続いて、翌25日の外報面ではダマスカス市民の声を伝えた。31日の朝刊1面では、イスラム国から奪還されたばかりのシリア北部の都市、アインアルアラブ(クルド名:コバニ)のルポが掲載された。執筆したのはカイロでの駐在経験が長いニューデリー支局長だ。2月1日の朝刊1面トップでは、イスタンブール支局長がシリア北部の都市、アレッポまで移動してイスラム国支配地域から逃れてきた人々の様子を報じた。
2月1日の記事では、取材環境を、
「情報を精査して移動経路に『イスラム国』の影響が及んでいないことを確認した」
「アレッポでの取材は朝日新聞が独自で行った。ヘッロ市長の取材のみ、シリア情報省経由で実現した。いずれの取材も情報省の職員が立ち会ったが、検閲は受けていない」
と説明している。
朝日記者のシリア入りは、読売新聞が1月31日夕刊、産経新聞が2月1日朝刊で伝えている。読売記事では、外務省が1月21日の段階で「日本新聞協会などに対し、シリアへの渡航を見合わせるよう強く求めていた」と指摘。産経記事では、
「外務省幹部は『記者も当事者意識を持ってほしい。非常に危険で、いつ拘束されてもおかしくない』と強い懸念を示した」
などと解説しており、両紙の記事では朝日の取材が望ましくないという前提になっている。
両紙の報道について、07年から13年まで天声人語を担当したことでも知られる冨永格特別編集委員が、ツイッターで
「日本国の要請に逆らって危険地帯に立ち入るとはけしからん、ウチは我慢してるのにというフラストレーションがありあり(笑)。政府広報じゃないんだから、もっとジャーナリズムしませんか。もちろんリスクを慎重に吟味した上でね」
「読売に抜かれてるぞ、がんばれ産経」
と揶揄したことへの反発もあって、ネット上では朝日批判が広がっている。