摂り過ぎると心臓疾患のリスクが高まるとされ、欧米では使用が規制されるケースもある「トランス脂肪酸」。最新の研究では、記憶力が低下する傾向にあることが報告されている。
トランス脂肪酸は、牛肉や乳製品などに微量に含まれる天然由来のものと、人工的に生成されるものがある。人工の方は、液体の「植物油」に水素を添加して硬化させ、固体の「油脂」を製造する工程で生成される。これを原料とするマーガリンやショートニング、さらにショートニングを使用して作るパンやケーキ、スナック菓子、揚げ物などに含まれている。
思い出せた単語に約10%の差
トランス脂肪酸は、血中の悪玉(LDL)コレステロールを増やし、善玉(HDL)コレステロールを減らす働きがあり、日常的に多量に摂取すると心臓疾患のリスクが高まるとされる。日本での1日あたりの平均摂取量は0.7g、摂取エネルギーに占めるトランス脂肪酸の割合は0.3%と推計されている。世界保健機構はこの割合を1%未満とするよう勧告しているので、日本人の平均的な食生活なら心配なさそうだが、偏った食事を続けている場合は注意が必要だ。
欧州(14カ国)での1日あたりの平均摂取量は1.2~6.7g、摂取エネルギーに占める割合は0.5~2.1%、米国では同5.8g、同2.6%ほどと見られ、摂取量が多くなりがちな欧米ではとりわけ関心が高い。たとえばニューヨークでは飲食店での使用に規制がある。そんな中、米国心臓協会主催の学会で2014年11月18日、トランス脂肪酸の摂取量が多い人ほど記憶力が低下する傾向にあるとした、カリフォルニア大学サンディエゴ校のビアトリムス・ゴロム医学部教授らの研究結果が発表された。
それによると、心臓病と診断されていない20歳以上の男性約1000人を対象に記憶力のテストを行った。テストは、単語の書かれた104枚のカードを提示して、それぞれの単語を初めて見たか、既に見たかどうかを尋ねた。なお、研究チームは食事に関するアンケートで、参加者のトランス脂肪酸の摂取量を推定した。
すると、働き盛り世代に当たる45歳未満の参加者で、トランス脂肪酸を多く摂取していた人ほど、テストの成績は著しく悪かった。トランス脂肪酸の摂取量が1日に1g増えると、正しく思い出せる単語は約0.76単語少なくなったという。また、摂取量が最も多かった人たちは、最も少なかった人たちに比べ、思い出せた単語が10%以上(約11語)少なかった。なお、正しく思い出せた単語の数は平均86個だった。
トランス脂肪酸の摂取量と記憶力低下の関係について、直接的な因果関係は分からないようだが、ゴロム教授は仮説として、トランス脂肪酸が体内の酸化を促した可能性を指摘している。酸化は、体内で「活性酸素」が過剰に発生することで進行する。余分な活性酸素は老化、がんや動脈硬化などの原因となる。記憶にとっても悪影響なのだろう。それならば、脳に良くて、積極的に摂取すべき食材はないものだろうか。
ニシン、イワシ、サバなどの青魚は脳にも肌にも良い
近年、脳に良いのではないかと注目されているのは「オメガ3系脂肪酸」だ。三大栄養素のひとつ「脂肪」を構成する成分が「脂肪酸」で、脂肪酸は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられる。不飽和脂肪酸をさらに分類すると、オリーブ油などに多く含まれる「オメガ9系脂肪酸」、コーン油などに多く含まれる「オメガ6系脂肪酸」、「オメガ3系脂肪酸」がある。
代表的なオメガ3系脂肪酸は、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、DPA(ドコサペンタエン酸)などだ。DHAは脳の主要な成分で、脳の発育や機能の維持に欠かせない。EPAやDPAは血流を改善する効果が期待できるので、脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症の予防にもなる。オメガ3系脂肪酸の働きで血液の流れがよくなれば、脳機能の活性化にも効果的だろう。
加えて、血行を良くして代謝が上がれば美肌につながるとあって、アンチエイジングの観点からも歓迎されている。オメガ3系脂肪酸を多く含む食材としては、ニシン、イワシ、サバなどの青魚、クルミ、アマニ油、エゴマ油など。熱に弱いので、魚なら生で食べるか、煮込んで栄養成分が溶け込んだ煮汁まで食べられる調理の工夫を。アマニ油やエゴマ油は食べる直前に料理に振りかけるとよい。
[アンチエイジング医師団 取材TEAM/監修:山田秀和 近畿大学医学部 奈良病院皮膚科教授、近畿大学アンチエイジングセンター 副センター長]
参考サイト
http://blog.heart.org/trans-fat-consumption-linked-diminished-memory-working-aged-adults/
アンチエイジング医師団
「アンチエイジングに関する正確で、最新かつ有効な情報」を紹介・発信するためにアンチエイジング医学/医療の第一線に携わるドクターたちが結成。 放送・出版などの媒体や講演会・イベント等を通じて、世の中に安全で正しいアンチエイジング情報を伝え、真の健康長寿に向き合っていく。HPはhttp://www.doctors-anti-ageing.com