業績回復を目指すソニーが音楽配信事業を巡り、海外で広く人気を集める定額配信サービス「スポティファイ(Spotify)」との提携を決断した。独自路線を捨てて他社の力を借りる方針に切り替えた。
デジタル音楽配信は、不振にあえぐスマートフォン(スマホ)事業にも大きくかかわる。その影響が注目される。
「30日間980円で聴き放題」だったが...
ソニーはこれまで「ミュージック・アンリミテッド」というサービスを運営してきた。国内では2500万曲を、30日間980円で「聴き放題」できる定額制だ。パソコン(PC)やスマホ、タブレット型端末に加えてソニーのゲーム機「プレイステーション」といった機器向けで、基本はストリーミングによる配信。ソニーは2015年1月29日、「ミュージック・アンリミテッド」を3月29日に終了すると発表した。
代わりに、「スポティファイ」と手を組む。新ブランド「プレイステーション・ミュージック」の名で、41か国・地域で「プレイステーション」や、同社のスマホ「エクスペリア」などに向けてデジタル音楽を提供する。2015年1月29日付のウォールストリートジャーナル(WSJ)日本語電子版によると、「ミュージック・アンリミテッド」の会員数は非公表だが、「事情に詳しい関係者によると、昨年下半期の有料会員数は10万人強」。一方、スポティファイは世界で有料会員1500万人、無料会員4500万人を擁する。利用者基盤は各段に大きい。
世界の音楽市場はCDの時代からダウンロード、そして近年は定額制ストリーミングへと形態が変化してきている。米国の場合、2013年には定額配信・ストリーミングが市場全体の21%に達したとの報道もある。スポティファイは配信サービスの代表格で、広告付きの無料提供という方式を活用して利用者を拡大してきた。
だがスポティファイは、たびたび「日本上陸」のうわさが流れるが現在もウェブサイトは「準備中」となったままだ。このためか、ソニーの新サービスも日本は対象地域から除外されており、配信開始は未定。これまで「ミュージック・アンリミテッド」を使っていた国内利用者から見たら、不便を強いられよう。競合のサービスへと顧客が離れていく恐れも否定できない。
デジタルイメージングやゲーム事業へさらに集中か
自力での配信という路線を捨ててスポティファイに頼るソニーの思惑は何だろうか。前出のWSJの記事では、ソニー・コンピュータエンタテインメントの社長アンドリュー・ハウス氏が、「音楽配信サービスよりもビデオゲーム機など『(ソニーが)絶大な専門性を持つサービスに集中』するのが望ましいとの判断がその背景にあった」と話したという。
ITジャーナリストの本田雅一氏は1月29日付「東洋経済オンライン」で、ソニーの平井一夫社長が過去1年で選択と集中を進め、この半年はイメージセンサーや信号処理技術、レンズといった「デジタルイメージング」事業と、ゲーム事業へと集中しようとしているように見えると述べた。
さらに「今回の発表は音楽配信サービスの事業提携とブランド再編でしかないようにもみえるが、昨今のネットワークサービスとハードウエアは、一体化した戦略が求められる」と指摘した。デジタル音楽を楽しむ主要ツールであるスマホの事業に、何らかの影響が及ぶのだろうか。
約1年前の2014年2月6日、平井社長は決算説明会で「スマホとタブレットを中心としたモバイル事業に集中する」と話した。ところが、けん引役となるはずのスマホは中国の新興メーカーの台頭で苦戦を強いられ、2014年10月には1000人の人員削減、続いて15年1月28日には「さらに1000人の追加削減」と複数のメディアが報じた。日本経済新聞電子版によると、人員は現状の3割減になるという。
今回の音楽配信事業の「方針転換」で、本来はビジネスの中核を担うはずだったスマホ事業にもさらなるメスが入らないとも限らない。