企業に社外取締役を置くことや女性を幹部に登用することを求める動きが強まっている。
それぞれ企業統治(コーポレートガバナンス)強化や、女性の活躍の場拡大と、目的は違うが、どちらも、経営にとっては人材の確保・育成に苦労するという意味で、影響は大きい。
「コーポレートガバナンス・コード」に明記
社外取締役の起用は、2014年12月に金融庁と東京証券取引所がまとめた、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治の原則)」の最終案の中で、上場企業に対して2人以上の社外取締役の選任を要請することが明記された。併せて社外取締役だけの会議を設け、独立性を維持しながら経営に積極的に関与できる仕組みの導入も求めたほか、大企業には「自主的な判断」により社外の割合を3分の1以上にすることも促した。社外取締役には、親会社や取引先の関係者、経営陣の親族などではなく、独立性の高い人材を選ぶことを想定しているという。
2014年6月の会社法改正(施行は今年春)で、社外取締役がゼロの上場企業は、その理由を説明することが義務付けられた。今回はこれを受け、一歩進めたもので、経営の透明性を高め、収益力の向上などを後押しするのが狙い。
「コード」は東証の上場規則に反映させ、2015年6月1日をめどに適用を始める方針で、東証1部、2部や新興市場などの上場企業約3500社が対象になる。法的な義務ではないものの、従わない場合はその理由を開示することが必要。ただ、新興市場の企業は規模が小さく、直ちに対応することが難しいことも予想されるため、理由の開示を一定期間猶予することなども検討する。
「攻め」の経営に効果
社外取締役を置くことは、身内でのなれ合いを排し、不祥事を防止するといった「守り」だけでなく、社内とは異なった経験に基づく知恵や斬新な視点を経営に生かす「攻め」の効果も期待されている。例えばリーマンショック後に過去最大の7800億円の赤字を出した日立製作所は過去最高益を上げるまでに劇的に復活したが、社外取締役を過半数に引き上げたことが「事業の選択と集中をドラスティックに進めるために不可欠だった」(全国紙経済記者)といわれる。
現状はどうか。社外取締役については、「コード」の基準を満たした「独立社外取締役」が複数いるのは、東証1部上場企業でも21.5%(2014年7月時点)にとどまる。社外取締役複数化のためには、東証1部だけで2000人、全上場企業で4800人の人材が新たに必要になる計算だ。
社外取締役登用に積極的な企業でも、日立のような成功例ばかりでなく、ソニーのように業績が長く低迷している例も少なくない。社外取締役には財務省や経済産業省など官僚OBが就くケースも多く、実質的な天下り先ポストの拡大という指摘がある。
ただ、制度が定着していけば、取締役経験者が、退任後に社外取締役に就くといった形で、慣例化していく可能性はある。「社長退任後の"再就職先"があれば、いつまでも会長や相談役に居座って"院政"を敷くような例は減るかもしれない」(全国記者)との声もある。
女性管理職3割以上は2社にとどまる
一方、女性幹部登用は、政府が管理職など指導的な立場の女性の比率を「2020年に30%にする」という目標を定めたのを受け、経団連が「自主行動計画」を呼びかけたものだ。
こちらの実情も、2014年10月末時点の経団連の集計結果(12月10日発表)によると、約1300社の会員企業のうち30%に達しているのはスクウェア・エニックス・ホールディングスと、人材育成支援のグロービスの2社だけ。何らかの計画をつくっていたのは365社で、その58%の211社が数値目標を取り入れていたというが、211社の中で女性管理職の比率を「30%以上に増やす」と掲げた企業は19社にとどまった。
経団連によると、管理職に占める女性の割合は米国43.1%、フランス39.4%、シンガポール34.0%などに比べ、日本は11.2%と大きく見劣りし、そもそも、働く女性の6割が登用には縁遠い非正社員だという現実の壁は厚い。
「30%以上」を掲げた主な企業の取り組みを、経団連のホームページから拾うと、▽女性職員の体系的な育成プログラムを実施、男性の育児・介護参加プロジェクトの推進(朝日生命)▽女性リーダー研修、キャリアアップ研修、短時間勤務制度の拡充など両立支援(池田泉州銀行)▽両立支援制度等の利用促進、管理職を目指す女性職員向け研修等(住友生命)▽女性社員のつながりとリーダー育成を目的としたフォーラム開催(ニトリホールディングス)▽女性の法人営業業務、本部企画業務等への積極配置など職域拡大(みちのく銀行)▽フルタイム勤務への早期復帰を支援する育児制度や長時間労働の是正等(三越伊勢丹ホールディングス)――などの項目が見られる。
当面、6月の株主総会集中時期に向け、社外取締役の争奪戦が水面下で激化するとみられる。一方、女性登用は息の長い取り組みが必要。そもそも大卒女性の採用拡大が遅れ、管理職候補が不足している企業も少なくない。政府・地方自治体の子育て支援策などと連動しながら、企業が働く女性にいかにやさしい会社になるかが問われることになる。