「島耕作」シリーズの作者、弘兼憲史氏の、子育てに熱心なイクメン男性は「出世しない」との発言が波紋を呼んでいる。
安倍政権が打ち出した「『女性が働き続けられる社会』を目指す」というアベノミクスの成長戦略を達成するには、男性の育児参加が重要とされる。とはいえ、男性社員の育児休業所得率(2013年度)は2.03%にとどまっているのが現状だ。
「出世」と「家庭」の両立、「理想ですが、現実には難しい」
共稼ぎ夫婦が増えて女性の社会進出が進んでいる。仕事を抱える妻だけに子育てを任せるのには無理があるのは間違いない。また、育児は「夫婦が一緒にする」という考え方が広がっていることなどが「イクメン」増加の背景にある。
政府としては、「イクメン」を増やして、女性が子供を産みやすい環境を整え、少子化に歯止めをかけたい狙いもある。
そうしたなか、弘兼憲史氏が「イクメン」を持ち上げる、最近の風潮に異議を唱えた。発言は「育児に熱心な男は出世しない」の見出しでNEWSポストセブン(2015年1月24日付)が取り上げたもので、「昨今、子育てを熱心にやるイクメン会社員がもてはやされています。しかし現実には、仕事のできる人間というのは家庭では必ずしも好かれていないし、逆に家庭的で幸せなパパというのは会社ではそんなに出世しない、という構図があります」と指摘。男性の「出世」と「家庭」の両立は「理想ですが、現実には難しい」としている。
こうした発言にインターネットでは、
「俺の父親も運動会とか全然来なかったけど、そのほうが安心できたな。子どもながらに父親の稼ぎで自分があることは理解していた」
「仕事にウェイトを置けば、その分家庭は疎かになるし、家庭を優先すればそれだけ仕事一筋の人と差が出るよ。それが当たり前だよ、というだけの話で何も間違ってない」
など、「よくぞ言った!」との声がある半面で、
「どっちがいいか悪いかって問題ではなく、選択ということだろ。家庭的幸福を犠牲にしなければ社会的成功は得られない、すべてを得ることなどできないということ」
「たしかに自分らが若いころはこんな考えの奴ばかりだったが、今では通用せん」
といった反論もある。
男性の育児参加の時間について厚生労働省は、
「単年度でみると一進一退ですが、長期的には右肩上がりにあります」
というが、雇用均等基本調査によると、女性社員の育児休業所得率が2013年度に83.0%だったのに対して、男性社員のそれは前年度と比べて0.14ポイントとわずかに上昇したものの、2.03%しかなかった。
育児休業、取得しづらいのは上司と部下の「世代間ギャップ」?
その一方で、じつは3割を超える男性が「育休を取りたい」と考えている(厚生労働省「今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査」)という。これは2008年の調査なので、最近はさらに増えているかもしれない。
男性社員が育児休業を取得したくても、利用できない理由の一つに、男性社員が育児休業を取ったり、育児のための短時間勤務やフレックス勤務を活用したりすることを上司などが妨げる、「パタニティ・ハラスメント」(パタハラ)があるとされる。
弘兼憲史氏も、
「たとえば僕が上司の立場だとして、急遽、重要な案件が発生して緊急会議になるから残ってくれ、と部下に頼んだとします。その返答が『すみません、今日は子供の誕生日なので帰らせてください』だったとしたら、僕はその部下を仕事から外しますね」
という発言をしていた。
この背景には、上司(管理職)と部下の子育て観の違いがあるという見方がある。中高年世代と子育て世代との「世代間ギャップ」といえるものだ。
「経済成長につなぐには、『イクメン』を増やすことが必要です」という、ニッセイ基礎研究所経済研究部の薮内哲研究員は、「育児が出世を妨げるという考えが抜けない背景には終身雇用制があります。終身雇用は『会社に尽くすこと』が評価軸ですから、休暇を取る人よりも取らないで頑張る人が評価されます」と説明。そのうえで、「政府の方針でもあり、最近は管理職(中高年世代)もイクメンが大事なことは理解していますが、一方で成果も上げなければなりません。『休暇を取れ、でも成果も上げろ』というわけですから、イクメンにしてみれば休暇を取りつつ、仕事の生産性を上げなければならない。これはお互いにつらいところです」とも話している。
こうした歪みが、男性社員の育児休業が伸びない理由とみている。