2015年1月5日、東京都内で開かれた連合(古賀伸明会長)主催の新年交歓会に、経団連の榊原定征会長が初めて出席し、労使の「雪解けムード」を印象づけた。
この日は金融緩和で物価上昇を目指す日銀の黒田東彦総裁も初めて出席し、2015年は連合、経団連の両会長と日銀総裁がそろう異例ずくめのスタートとなった。
交歓会を例年になくマスコミが注目
原油価格の低下で日本経済には追い風も吹くが、1ドル=120円前後で推移する円安は中小・零細企業の仕入れコスト上昇につながり、2015年も緩やかな物価上昇が予想される。果たしてアベノミクスでサラリーマンの賃金は上がるのだろうか?
新年の仕事始めとなった交歓会は、例年になくマスコミの注目を集めた。連合はこれまでも経団連や日銀に招待状を送っていたが、実際に経団連会長と日銀総裁が新年交歓会に出席するのは、いずれも初めてだったからだ。とりわけ歴代の経団連会長は、毎年の春闘で賃上げをめぐり、連合と火花を散らす経営側トップで、これまで連合主催のパーティーに出席することはなく、顔合わせは春闘の労使交渉のほか、政府の政労使会議などに限られていた。交歓会で経団連の榊原会長は賃上げについて「企業収益を拡大し、賃金の引き上げにつなげる最大限の努力をしていく」と述べた。
これには伏線がある。安倍晋三首相は2014年12月16日、首相官邸に経団連、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会と連合の代表を招き、「経済界のみなさんに賃上げについて最大限の努力を果たしていただけるよう要請したい。賃上げの流れを来年、再来年と続けていき、全国津々浦々にアベノミクスの効果を浸透させたい」と述べ、春闘で賃上げするよう異例の要請をした。
この会合では、(1)経済界は賃金の引き上げに向けた最大限の努力を図るとともに、価格転嫁などに総合的に取り組む (2)賃金体系は個々の会社の労使が十分な話し合いのもと、子育て世代への配分を高める方向へ賃金体系を見直すことが一案 (3)非正規雇用労働者に処遇改善や正規化を図るなど労使一致の協力の下に取り組む――などで合意。政労使が賃上げの努力で合意するのは2年連続だ。労働側に配慮し、経営側に賃上げや正規雇用など大幅な改善を求める内容だが、裏を返せば、政府が主導し、労使に呼びかけなければ、実現が困難な高いハードルということでもある。
物価の上昇に家計の所得の増加が追いつかず
安倍政権は昨年末にまとめた緊急経済対策で「消費税率引き上げの影響を含めた物価の上昇に家計の所得の増加が追いついていない。低所得層や子育て世帯の家計や地方の中小企業に影響を及ぼしている」と、アベノミクスの失策を事実上認めている。厚生労働省によると、2014年度(4~9月)の消費者物価は前年同期比3.4%上昇したが、賃金は同0.4%の伸びにとどまった。2012~2014年度の累積では物価が4.0%上昇したのに対して、賃金は0. 1%のマイナスとなっている。
内閣府の試算では2015年度、消費者物価は2.5%上昇すると予想される。日銀も金融緩和で2%の物価上昇を目指しており、連合は今春闘で「2%以上」のベースアップを求める方針だ。
しかし、経団連はベアを容認するものの、物価上昇を上回る賃上げは「多くの企業にとって現実には困難」としている。このまま物価上昇を上回る賃上げが実現しなければ、アベノミクスが目指す経済の好循環は再び遠のくことになる。今春闘は政府主導の「官製春闘」(連合関係者)などと揶揄される中、果たして新年の経団連と連合の接近は局面打開となるのか? 1月下旬から始まる春闘の攻防が注目される。