国会答弁などでの「安全運転」ぶりに定評がある岸田文雄外相が、インド訪問中に口を滑らせる一幕があった。インドと中国の係争地について、「係争地」とは述べたものの「インドの領土」とも明言してしまい、中国は「深い懸念」を表明。
日本の外相が中印の領土問題については発言するのは珍しく、菅義偉官房長官が「現実を踏まえて発言したんだろうと思っている」などと火消しに追われた。
外務省ウェブサイトの地図では国境線は点線、問題の地域はインド領に含まれる
発言が出たのは、岸田氏が2015年1月17日にニューデリー市内で行った講演。質疑応答で参加者からインド北東部の開発について質問され、インド北東部のアルナチャルプラデシュ州について、こう発言した。
「アルナチャルプラデシュについてですが、この地域についてはインドの領土で中国との係争地であると...」
日本の外務省ウェブサイトの地図では、中印の国境線は点線になっているが、アルナチャルプラデシュ州はインド領に含まれている。同州をインドが実効支配していることを踏まえているとみられるが、国境問題については「中国とインドで協議中」というのが日本政府の立場だ。岸田氏の発言は従来の立場を外れているともとれ、早くも中国が反発した。
中国外務省の洪磊(ホン・レイ)報道官は1月19日の会見で、発言について
「中国はこの件について深く懸念しており、日本側の見解を強く求めているところだ。発言がもたらした負の影響をすぐに取り除くように求めている。日本側は中国側に対して、係争地についてどちらの側にも立っておらず、介入しないことを明言した」
などと警戒感をあらわにし、「余計なことをするな」とばかりにクギを刺した。
「日本が中印国境問題の敏感さを十分に理解し、交渉を通じて紛争を解決しようとする中印の努力を尊重し、この問題に関する発言や行動を慎むように求める」
菅官房長官「現実を踏まえた中で大臣が発言されたんだろうと思っている」
岸田氏は20日時点ではヨーロッパに滞在中で、22日に帰国予定。現時点で岸田氏の真意は明らかではないが、東京では菅官房長官が釈明に追われた。1月19日の会見では、
「インドが基本的に、事実上支配しており、中国との国境問題についてインド-中国の間で、協議が継続しているとの事実関係を踏まえて発言されたんだろうと思っている。我が国としては、中国-インドの協議によって平和的に解決することを期待したい」
「現実を踏まえた中で大臣が発言されたんだろうと思っている」
などと繰り返したが、「インドが実効支配=インド領」と解釈するのは無理があるという指摘も出そうだ。