日銀の大規模な金融緩和による一段の金利低下が、銀行や生命保険会社など金融機関の収益を圧迫し始めた。
貸出金利や有価証券の利回りが歴史的な水準まで急低下し、収益源である「利ざや」の縮小が止まらないのだ。地銀や生保からは低すぎる金利に悲鳴が上がっている。
「異次元緩和」で過去最低水準に
「貸し出しのボリュームは増えているが、貸出利息や有価証券運用収入は右肩下がり。どう収益を確保するか、極めて難しい状況だ」。 全国地方銀行協会の寺門一義会長(常陽銀行頭取)は1月14日の記者会見で苦境を語った。
銀行は集めた預金を貸し出しや国債などの有価証券で運用して稼いでいる。貸出金利と有価証券の運用利回りから、預金金利や経費などの資金調達コストを差し引いたものが「総資金利ざや」で、銀行の収益の源泉だ。
しかし、日銀による大量の国債買い入れを柱とする「異次元緩和」で、債券市場では金利の低下が続く。2014年10月末の追加緩和で拍車がかかり、企業への融資や住宅ローンの金利の参考となる長期金利の代表的な指標である新発10年物国債の利回りは、2014年初の0.7%台から2015年初は過去最低水準の0.2%台まで低下した。
金利低下を受け、銀行は企業向け貸出金利や住宅ローン金利を軒並み引き下げている。3メガバンクが2015年1月に適用する10年固定型の住宅ローン金利(最優遇金利)は1.15%。メガバンク幹部は「採算ラインぎりぎりに近づいており、もうけが出ない」と嘆くが、2014年4月の消費増税後に住宅の売れ行きが鈍ってから銀行間の顧客獲得競争は一段と激化しており、金利低下は止まりそうにない。
銀行の7割は総資金利ざやが縮小
運用利回りの悪化から、利ざやの縮小には歯止めがかからない状況だ。東京商工リサーチの調査によると、全国112行のうち、2014年9月中間決算の総資金利ざやが2014年3月期から縮小した銀行は約7割に上った。メガバンクは資金需要や比較的高い利ざやが見込める海外で貸し出しを拡大し、収益を伸ばす手があるが、国内での運用にほぼ頼らざるを得ない地銀の経営への影響は特に大きい。
契約者から集めた保険料を国債などで運用する生保も長期金利の低下に頭を悩ませている。業界最大手の日本生命保険は2月から、保険料をまとめて払い込む一時払い終身保険の保険料を値上げする。一定の期間がたつと払い込んだ保険料を上回る解約返戻金を受け取れるため人気を集めているが、長期金利の低下で契約者に約束した運用利回りを得にくくなっているためだ。他社も追随する可能性があり、日銀の異次元緩和の余波が保険商品にも及んでいる。
日銀が追加緩和を決めた2014年10月末の金融政策決定会合の議事要旨によると、金融政策を決める審議委員の中にも、一段の金利低下が金融機関の収益を圧迫することを危惧する声があったという。今後も超低金利の状況が続けば、総資金利ざやがマイナスになる「逆ざや」に陥る銀行が増えかねず、銀行業界では「体力のない地銀から再編に追い込まれる」との見方も出てきた。金融庁も金利低下が地銀の収益力に及ぼす影響について注視しており、「異次元緩和が地銀大再編の引き金を引くことになるかもしれない」との声が業界関係者の間でささやかれている。