スイスフランが急騰した。スイス国立銀行(中央銀行)が、自国の通貨「スイスフラン」の上昇を抑えるために設けていた1ユーロ=1.20スイスフランの上限を撤廃したためだ。
スイスフランは、ユーロをはじめドルや円など主要16の通貨に対して軒並み「買い」が優勢の全面高の様相になった。外国為替市場は大荒れだ。
突然の政策変更、欧州は「スイスフランショック」に
スイス国立銀行(中央銀行)は2015年1月15日、スイスフランの上昇を抑えるために対ユーロで設けていた1ユーロ=1.20スイスフランの上限を撤廃すると発表した。
2011年当時、欧州の債務危機のなか、景気悪化とデフレ懸念を背景にユーロを売ってスイスフランを買う投資家の動きが止まらなかったため、スイス国立銀行は11年9月6日にスイスフランに上限制を導入。外国為替市場で無制限にスイスフラン売り・ユーロ買いを進めることで、スイスフラン高を抑えてきた。
ところが、過去3年維持してきたこの政策の継続を突然、断念。しかも、外国為替市場では欧州中央銀行(ECB)による量的緩和観測が強まっており、ユーロ売り・スイスフラン買いの圧力が増していた。
外為どっとコム総合研究所の調査部長・上席研究員、神田卓也氏は、「欧州では、凄まじい『スイスフランショック』が市場を襲ったようなもの」という。
スイスフランは対ユーロで、発表直後の1月15日午後6時53分(日本時間)に、前日比30%高の1ユーロ=0.92フランを付けた。一時は0.8517フランまで上昇し、過去最高値を記録。ドルに対しては26%上昇の1ドル=0.81フラン近辺と、2011年8月以来約3年5か月ぶりのドル安・スイスフラン高の水準となった。
対円では、115円台から一時162円台前半まで約47円も急騰したが、その後は130円近辺まで30円ほど急反落するなど、大きく上下に振れている。
こうした外国為替市場の混乱に、外為どっとコムやジャパンネット銀行などの外国為替証拠金(FX)取引業者が相場の激変を理由に、急きょ取引の一時停止などの措置をとったほか、インターネットでも、
「そりゃてっぺん張り付いてたのを制限解除すりゃこうなるだろ」
「おいおい、これでまたリスクオフで円買い始まったじゃねえか」
といった、動揺の声が寄せられている。
外為どっとコム総合研究所の石川久美子氏は、ツイッターで「スイス国立銀行がFXやってる人に与えた衝撃は『ドル円いきなり115円→78円』『日経平均いきなり-1200円』に相当」と、つぶやいた。
スイスフラン暴騰の余波、「ユーロも対ドル、対円で急落した」
とはいえ、「スイスフランによる国内のFX投資家への影響は小さかった」と、前出の外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏はいう。
そもそも、国内のFX投資家がスイスフランを取引している人はきわめて少ない。取り扱っているFX業者が少ないこともあるが、2014年11月の売買高でみると、FX取引全体(570兆円)の1%にも満たない。
神田氏は、「スイスフランは日本円と同じで、世界的にみれば『安定通貨』です。低金利で、日本円とのペアでは儲けも薄いため、人気がないんです」と、取引が少ない理由を説明する。
ただ、それでは済まないのが為替相場。スイスフラン暴騰の動きは、他の通貨にも大きな影響を与えている。なかでもユーロは対スイスフランで急落したことから、ドルや円に対しても大きく値を下げた。
ユーロは、対ドルで一時1ユーロ=1.1580ドル近辺と2003年11月以来11年2か月ぶりのユーロ安・ドル高水準となったほか、対円では1ユーロ=135円80銭近辺と14年10月以来の円高・ユーロ安水準になった。
神田氏は、「国内の投資家にとって、むしろユーロ安の影響が大きかった。もともと円安が進むとみて投資している人が多いのでユーロ安に動いたことによって、損失を被った人は少なくなかったはずです」と話す。