政府は1月14日の閣議で、2015年度予算の政府案を決めた。各論を言い出せばきりがないので、景気動向を左右する総論に絞ってみよう。新聞各紙では、一般会計の総額は96兆3420億円で、これが「過去最大」になっていることを強調している。もちろん、これは間違いではない。
財務官僚が予算を一枚紙で説明しろといわれれば、まず予算フレームを使う。これは、予算全体を前年度との比較で簡単に示したものだ。それによれば、15年度予算総額96兆3420億円となっていて、前14年度の95兆8823億円から4596億円増えているとある。前14年度も過去最大であったが、それとほぼ同じとなっただけだ。
新年度予算案に「12月総選挙」の影
他の項目をみても、前年度とあまり変わらない。予算には、もともと前年度から何%プラスマイナスにするかという「増分主義」で作られているため、大枠は前年度と大差ないのが普通だ。それにしても、15年度予算は、「前年度の微修正」色の強いものになっている。これは、12月に総選挙があったため、予算編成に時間制約があったためだ。
もっとも当初予算が前年度と同じでも別に悪いことではない。問題は、15年度予算と一体となっている14年度補正予算である。補正予算は昨年末の12月27日に閣議決定されているが、予算額は3.1兆円である。
今の経済状況は、昨14年4月からの消費増税によって景気が落ち込んだ状態である。1年ほど前の14年1-3月期は、GDP(需給)ギャップはほぼゼロに近くになったが、14年7-9月期では15兆円ほどになっている。GDPギャップがあると、物価が下がり、失業は減らない、つまり、経済が持てる力をフルに発揮していない状態だ。
政府は、GDPギャップをなくすように経済政策を行うのが鉄則である。このため、金融政策と財政政策のマクロ経済政策がある。手っ取り早くGDPギャップを解消するには、補正予算で景気対策を行うのがいい。
「過去最大」は作られた数字
政府による消費増税の失敗だったのだから、政府の景気対策が筋である。本来であれば、14年度補正予算は10兆円規模で行うべきだった。
財源は心配ない。円安によって外為特会では10~20兆円程度の含み益が出ているからだ。筆者は、補正予算で手当が出来なければ、15年度予算での特別枠などで対応することを期待していたが、出来なかった。こうなると、消費増税の悪影響は長引き、今年前半まで尾を引きずるだろう。
新聞報道の「過去最大」というのは、たいした意味がない。景気対策の観点からは、もっと増額すべきだった。実は、冒頭に述べた予算フレームをみても、過去最大は作られた数字であることがわかる。(歳出の)国債費をみると、15年度23兆4507億円、前14年度23兆2702億円とほぼ同じだ。これは、ともに予算積算金利として1.8%を使っているからだ。これは、国債長期金利が0.3%程度と低いにもかかわらず、高い積算金利で予算をかさ上げしているからだ。このかさ上げした予算は、いずれ不用となって、年度内の補正予算の財源になる。実際、14年補正では国債費は1.5兆円減額され、補正予算の財源になっている。
こうした予算の水膨れを直せば、簡単に総額は1兆円程度減額できる。それにもかかわらず、国債費を水膨れさせ「過去最大」を作ったのだ。外為の「隠れ財源」には一切ふれないで、国民生活の観点からみれば、実はシャビーな(みすぼらしい)予算である。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。