東レへの注目度が高まっている。米ボーイング社に対し、今後10年間で1兆円を超える航空機向け炭素繊維素材を供給することを決めるなど、最先端の技術力を武器に、世界市場で存在感を強めているからだ。
ユニクロを展開するファーストリテイリングとの協業でも成果は大きく、低迷する国内製造業の中で異彩を放っている。
開発を始めたのは半世紀前
東レの好調ぶりで際立つのは、ボーイング社製の最新鋭中型旅客機「ボーイング787」を技術面で支えている炭素繊維素材だ。787の最大の特色は、燃費効率が従来機に比べて約2割向上している点。「鉄より強く、アルミニウムより軽い」とされる炭素繊維素材がこれを実現している。
東レは、既存の787に加え、2020年にも航空会社への納入が始まる「777X」の主翼向けに炭素繊維素材を供給することでボーイング社と昨年合意。これに伴い、米サウスカロライナ州に1000億円を投じて工場を新設し、生産設備を増強する体制作りを急いでいる。
東レが炭素繊維素材の開発を始めたのは約50年も前という。しかし、製造コストの高さや加工の難しさなど問題が多く、実用化はなかなか進まなかった。実際、炭素繊維の世界シェアは、東レのほか、帝人傘下の東邦テナックス、三菱レイヨンの日本勢3社が6割強を握っているが、世界の他メーカーは多額の開発投資に耐えられず、事業化を諦めてしまったという。東レにとっても長年続く赤字事業だったが、「次世代の貴重な素材になるはず」との決意を持ち続け、現在の成功につながった。
日本の製造業発展の一つのお手本
東レの快進撃はファーストリテイリングとの連携でも浮かび上がる。両社の関係は約20年前から始まったが、元々は東レが繊維を納めるだけの取引だったという。しかし、繊維分野でアジア勢が台頭する中、東レは「繊維を供給するだけでは将来にわたり生き残れない」と判断。商品そのものの企画・開発段階からファーストリテイリングと積極的に関わり、ロングランの機能性肌着「ヒートテック」を生み出した。「世界展開を加速するファーストリテイリングとうまく協業したことで、繊維の販路拡大につなげた」(繊維業界関係者)と評価される。
先見性と粘り強さから、技術開発を怠らず、ボーイングやファーストリテイリングなどの大口顧客をつかんだことが現在の繁栄に結びついているわけで、日本の製造業発展の一つのお手本と言えるだろう。
ただ、この状況が永遠に続く保証はない。次の時代に向けた炭素繊維拡大のカギは自動車分野だとされている。高級車向けだけでなく、量産車への採用を実現することが重要だ。この分野では、帝人が米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携するなど勢いがある。
一方、鉄鋼メーカーは自動車向け鋼板の軽量化に総力をあげており、東レの前に立ちはだかる壁は厚い。また、ファーストリテイリングとの協業である「ヒートテック」も今や「頭打ちではないか」(流通関係者)との見方も出ている。将来の市場の見通しとたゆまぬ技術革新への努力は"絶好調"の東レにとっても欠かせないのは言うまでもない。