再生医療をより早く、安全に実施することをめざす「再生医療安全性確保法」と「医薬品医療機器法(旧薬事法)」の関連2法が2014年11月施行された。
「再生医療製品」という分野を新たに設け、培養した細胞や組織などを条件付きで早期承認するなど、かなり大胆に規制を緩める一方、効果が不確かな医療行為が自由診療で広がるのに対しては国による監視を強めるという、硬軟両面の効果を持つ。
条件付き、期限付きで事業化を承認
再生医療とは、細胞や組織を人工的に培養するなどして体に移植することで、病気やけがで失われた身体機能を回復させる技術。現在でも移植医療は行われているが、ドナー(提供者)不足や拒絶反応といった問題がある。再生医療によってこうした課題が解決すると期待されている。
例えば最近、特にこの分野で脚光を集めるiPS細胞(人口多能性幹細胞)から様々な細胞や組織をつくる研究も進んでおり、日本は理化学研究所などが14年9月に世界で初めて目の難病患者に移植する手術を実施するなど、研究水準は世界トップクラス。しかし、米国や韓国で、やけど治療用の皮膚製品など10以上の製品が実用化されているのに対し、日本は2品目だけと出遅れている。
そこで、医薬品医療機器法で、従来の医療機器、医薬品とは別に「再生医療製品」を定義し、早期に承認できる仕組みを導入した。具体的には、従来と同水準で安全性が確認されれば、有効性が「推定」されるという段階でも、「再生医療製品」として条件付き、期限付きで事業化の承認を受けられる。
「ドラッグラグ」「デバイスラグ」をなくす
いわば、「仮免許」のような仕組みで、患者に使いながら効果が確かめられたら正式に承認される。従来、日本では医薬品や医療機器の承認が欧米より遅れる「ドラッグラグ」「デバイスラグ」が問題視されてきたことから、今後、再生医療分野で同じ轍を踏まないようにしようということで、一刻も早く最先端治療を受けたい患者には朗報だ。
製品化を急ぎたい企業も当然、大歓迎だ。実際に、2007年に承認されたやけど治療用の培養表皮の場合は、「医療機器」として審査され、確認申請から承認まで7年かかった例もあり、この期間が半減するとの見方もある。早期承認で企業は治験の費用を抑えられる。
すでに法施行を先取りして、医療機器大手テルモ(東京都)は10月末、重症の心臓病治療のため自分の足の筋肉の細胞をシート状に培養して貼り付ける「細胞シート」を、再生医療製品として承認申請。医薬品メーカーのJCRファーマ(兵庫県)は9月、骨髄移植などの免疫異常回復に使う細胞製品を申請した。バイオベンチャーのテラ(東京都)も、がん免疫療法で用いる細胞の治験を2015年から始め、早期承認を目指している――と言った具合だ。
細胞の培養と加工を企業など外部委託が可能に
もうひとつの「再生医療安全性確保法」という新法では、医療機関内で行うのが一般的だった細胞の培養と加工を企業など外部に委託できるようにした。「タカラバイオ」(滋賀県)が14年10月、県内に細胞加工ができる施設を稼働させるなど、これも企業の注目を集めている。
こうした大幅な制度改正を受け、日本での開発を有望視する海外勢の進出も期待される。経済産業省は2012年に90億円だった再生医療関連の国内市場は2050年には2.5兆円に拡大すると推定している。
一方、安全性確保法では、各医療機関に再生医療の実施計画を厚生労働省へ事前に届け出ることを新たに義務付けた。安全性や効果が十分確認されていない療法が自由診療で美容外科などに広がっているのに実態把握が十分にできていないからで、届け出る前に、医師や法律専門家らで構成され国から認定された委員会による審査を受けなければならない。無届けで再生医療をしたり、虚偽の届け出をしたりした場合は罰則も科す。
細胞培養の人材育成が遅れる
例えば、患者の脂肪から取り出して培養した幹細胞を使う医療行為は、自由診療として行う分には規制がなく、日本は海外からの「幹細胞治療ツーリズム」のメッカと化していた。中には治療後に外国人患者が死亡した例も表面化しており、こうした事態を防ぐため、扱う細胞の種類や投与法などによって3段階で規制をかけ、脂肪の細胞を使った豊胸手術なども対象とした。
新たな段階を迎えた日本の再生医療だが、課題も少なくない。再生医療に不可欠な細胞培養の人材育成は、日本再生医療学会が「臨床培養士」の認定制度を設けたところで、受験者は予想外に少ないという。再生医療の実施計画届出前の審査を行う委員会を構成する人材の確保もこれからだ。さらに、再生医療製品は仮の承認の段階で保険適用になる見通しで、患者負担は減るが、例えば理研のiPS細胞の臨床研究第1号は数千万円の費用がかかったとされ、医療保険財政をパンクさせないためにも、コストダウンが極めて重要になる。