将来の運賃収入を担保に借金
延伸区間前倒しの金策に話を戻すと、政府は北海道新幹線について、札幌までの延伸を従来計画から5年早めて2030年度とし、北陸新幹線は敦賀への延伸を3年早めて2022年度とする方向で調整を進めている。しかし、それぞれの前倒しには新たに計5400億円の財源が必要と国土交通省が試算している。これをどうするか。
政府が焦点を当てたのは、JR各社が得る将来の新幹線の運賃収入だ。整備新幹線は実態として公共事業であり、建設費用は国が3分の2、地方自治体が3分の1を負担する。JRは建設された施設を借りる立場で、運賃収入から経費を差し引いた額を「貸付料」として、施設を建設・保有する独立行政法人「鉄道・運輸機構」に支払う。この貸付料を担保に計2000億円を金融機関から借りることにした。
さらに、鉄道・運輸機構の借金の金利とJR貨物への支援金の見直しで、2500億円程度を得る算段だ。鉄道・運輸機構の借入金利は2%だが、日銀の金融緩和で実勢金利が下がっていることを踏まえ1%前後に引き下げる。JR各社が払う「貸付料」の一部がJR貨物の支援に充てられる現状を見直し、新幹線整備に回せるようにする。それでも足りない900億円は国と地方自治体が追加負担する方向だ。当初、与党が検討したJR九州の株式上場による売却益の充当は見送られた。もともと株式売却益は旧国鉄債務処理法で旧国鉄職員の年金に充てることになっているためだ。
しかし、そこまでして金策に走って延伸を前倒しすることには疑問の声もある。もともと札幌―東京間は航空各社のドル箱路線。どれだけ頑張っても5時間近くかかる新幹線にいかほどの乗客がシフトするかは見方が分かれる。北陸も「金沢と敦賀の需要の違いは精査が必要」との指摘もあるだけに論議を呼ぶ可能性がある。