石油元売り国内2位の出光興産が、同5位の昭和シェル石油をTOB(株式公開買い付け)で買収することを検討している。
国内の石油需要は人口減少と自動車の低燃費化で縮小しており、全国に約3万4000か所あるガソリンスタンド(SS=サービスステーション)は熾烈な販売競争が続いている。出光が昭和シェルを子会社とすることで、石油業界はさらなる合理化が進みそうだ。
ロイヤル・ダッチ・シェルは日本市場から撤退か
石油元売り大手の再編は、2010年に当時の新日本石油と新日鉱ホールディングス(HD)の経営統合で、JXホールディングスが発足して以来となる。この時は、新日鉱HD傘下のジャパンエナジーの「JOMO」ブランドのSSは、JXの誕生で「ENEOS」ブランドに統一された。
現在、昭和シェルの筆頭株主は石油メジャーの英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルで、シェルグループが発行済み株式の約35%を保有している。ロイヤル・ダッチ・シェルが出光のTOBに応じるとすれば、ロイヤル・ダッチ・シェルが日本市場から事実上、撤退することを意味する。その場合、国内のシェルブランドのSSは、アポロマークの出光のSSに統一される可能性が高い。
もちろん、「エッソ」「モービル」「ゼネラル」の3ブランドを擁する東燃ゼネラルグループのように、再編後も本家のエクソンモービル社とライセンス契約し、日本でも慣れ親しまれたブランドを使用するケースもある。ロイヤル・ダッチ・シェルが出光のTOBにどこまで応じるかによって、シェルが日本国内で影響力を保持し、ブランドが残る可能性もある。
気になるのは、両社で異なるハイオクガソリンやエンジンオイルなどの商品だ。商品開発で保守的な出光に対して、昭和シェルは、業界トップのJXと並び、新たな商品を市場に投入するのに積極的だ。出光は1993年にハイオク「スーパーゼアス」を発売して以来、新たな商品を発売していない。
これに対して、昭和シェルは2014年7月、12年ぶりとなる新ハイオク「Shell V-Power」を発売。「シェルがフェラーリとF1マシン向けのレース燃料開発で培った技術を応用した」とされ、「エンジン内部に付着する汚れを洗浄し、錆から保護する新たな清浄剤を採用し、クルマ本来の性能を引き出す」という。
SSの半数近くが赤字経営
レギュラーガソリンが石油元売り各社共通の規格品で、基本性能が同じであるのに対して、「ハイオクは元売り各社によって添加剤や調整が創意工夫され、燃費や加速性能が異なっている」(石油元売り関係者)という。ハイオクに関しては、これまでJXとシェルが新商品の開発競争をリードしてきた。出光が昭和シェルの子会社化で、どんな商品戦略をとるのか注目される。
現在、日本国内には石油元売り系列が8グループ、石油精製会社が13社ある。製油所はピーク時の1983年には49か所あったが、供給過剰のため2014年には23か所まで事業再編が進んだ。出光が昭和シェルを子会社化すれば、売上高は約8兆円となり、首位のJXHDの約12兆円に迫るが、石油業界の未来は安泰とは言えない。
経済産業省によると、石油市場はハイブリッドカーの普及などで需要が減少し、2018年度は2014年度に比べて石油製品の国内需要は7.8%減少する見通しだ。石油元売り各社は供給過剰な製油所を閉鎖、1994年度のピーク時には全国に6万か所あったSSは2013年度末に3万4000か所に減少した。全国石油商業組合連合会によると、「国内のガソリンは慢性的な供給過剰状態で、SS間の熾烈な販売競争が常態化しており、全体の半数近くが赤字経営だ」という。全国に出光のSSは3762店、昭和シェルのSSは3377店。再編後、この数が減ることはあっても、増えることはないだろう。