経済学者で慶應義塾大学総合政策学部の教授で、人材派遣のパソナグループ会長でもある竹中平蔵氏が、テレビの討論番組で「正社員をなくしましょう」と発言したことが波紋を広げている。
竹中氏はこれまでも、「アーティストは残業代ゼロなんです」「正規(社員)は守られすぎている」などと発言、日本の「正社員」は過剰に保護されていると指摘していた。どうやら、「正社員をなくそう」というのは竹中氏の持論らしい。
正社員と非正規、「非正規のままでいい人のほうが多い」・・・
竹中平蔵氏といえば、かつては小泉内閣時に経済財政政策担当相、金融担当相、郵政民営化担当相として辣腕をふるい、安倍内閣では産業競争力会議でさまざまなことを提言するなど、大きな発言力をもっている。
「発言」は、「激論!戦後70年日本はどんな国を目指すのか!」をテーマに論じられた、テレビ朝日系の「朝まで生テレビ!元旦スペシャル」(2015年1月1日放送)で飛び出した。
「改正派遣法の是非」の議論で、竹中氏は現状の派遣労働者や非正規雇用の地位について、厚生労働省が実施した派遣に対する調査を例に、正社員に変わりたい人と非正規のままでいいという人では、「非正規のままでいいという人のほうが多い」という結果を紹介。また、派遣雇用の増加原因を竹中氏は「日本の正規労働ってのが世界の中で見て異常に保護されているから」と説明。整理解雇の4要件が正社員の解雇を難しくし、雇用の流動性を歪めているとの認識を示した。
さらに竹中氏は同一労働同一賃金について、
「(実現を目指すなら)正社員をなくしましょうって、やっぱね言わなきゃいけない」
「全員を正社員にしようとしたから大変なことになったんですよ」
と指摘した。
こうした竹中氏の発言を支持する人は、少なからずいる。
経済学者の池田信夫氏はその一人。池田氏は2015年1月4日付の自身のブログで、「非正社員に日本の未来がある」と題して、「竹中平蔵氏が朝まで生テレビで『同一労働同一賃金をめざすなら正社員をなくそう』と言ったことが批判を浴びているが、これは彼が正しい」と記し、ツイッターでも「『正社員』というシステムを廃絶することが改革のコアだ」と、つぶやいている。
インターネットに寄せられている声にも、
「目指しているのは雇用の流動化。正社員という法的な足かせがその流動化に障壁となっているのは確か」
「40過ぎて何のスキルも得られずに会社でのうのうとしている老人たちは解雇されても仕方ない」
などといった「正社員」への不満が漏れている。
「人材派遣会社の会長さんがそんなこと言っても説得力ないだろ」
もちろん、竹中平蔵氏に批判的な声も多い。
「派遣が普通で正社員が異常といった世論にもっていきたいらしい。自分の身分が強固な人はなんでもいえるわ」
「この人派遣会社の会長さんでしょ。そんな人がこんなこと言っても説得力ないだろ」
といった具合だ。なかでも、竹中氏が人材派遣のパソナグループの会長職にあることが、火に油を注いでいるようだ。
正社員がなくなって派遣社員が増えれば、パソナグループのような人材派遣会社が儲かる。つまり、利益誘導ではないか、ということらしい。
ブラック企業被害対策弁護団代表の佐々木亮弁護士は、2015年1月4日付の自身のブログで、「(竹中氏が)パソナグループの取締役であるかぎり、パソナグループの利益を第一に考えなければなりません」と記し、竹中氏の立場であれば「当然」というのだ。
ちなみに、総務省が2014年12月26日発表した11月の労働力調査で、非正規労働者は初めて2000万人を超えた。非正規労働者の処遇の改善が大きな課題であることは間違いない。