我が国の原子力発電の草分けで、国策会社でもある日本原子力発電が窮地に陥っている。原子力規制委員会の有識者会合が2014年11月、敦賀原発2号機(福井県敦賀市)の直下を走る断層を「活断層」と改めて認定したことで、同原発の再稼働が難しい状況だからだ。敦賀2号機は、日本原電の経営の「生命線」だけに、経営形態の見直し論も浮上している。
日本原電は1957年に電力大手9社と電源開発が共同出資して設立した原子力発電専業会社で、1966年に国内初の商業用原発となる東海原発(茨城県東海村)の営業運転を開始した。
再稼働を申請している東海第2見通しつかず
東海原発は1998年に運転を終了し、国内商業用原発で初めて廃炉作業に入っており、現在は東海第2原発(同)、敦賀原発1、2号機の3基を保有。東京、関西、中部、東北、北陸の電力大手5社に電力を販売していたが、東京電力福島第1原発事故のため、2011年5月までに全原発が停止し、そのままの状態が続いている。
3基のうち東海第2は再稼働を申請しているが、福島第1原発と同じ「沸騰水型」(BWR)のため審査に時間がかかるのは必至。1970年に運転を開始した敦賀原発1号機の運転期間は地元自治体との約束で2016年までとされ、廃炉が検討されている。また、敦賀3、4号機の建設計画もあるが、今のところ政府は原発新増設の可否を判断できる状況にはなく、現状で建設の可能性は限りなくゼロに近いというのが実態だ。
頼みの綱の敦賀2号機も有識者会合で「活断層」
そこで頼みの綱が1987年稼働の敦賀2号機ということになるが、有識者会合で「活断層」との認定が覆されない限り、廃炉は避けられない。このため、日本原電は、原子力規制委の今後の対応次第で行政訴訟も辞さないなど、あくまでも再稼働を目指す姿勢を堅持しているが、展望は開けていない。
そんな中、日本原電の「兵糧」が細る懸念も高まっている。日本原電は、電力を供給してきた電力大手5社から、発電が停止している今も「原発維持管理費」などの名目で「基本料金」を受け取っており、その額は2013年度1250億円、2014年度1100億円(見込み)に達する。だが、電力大手も原発停止の長期化に伴い電気料金の再値上げを検討するなど青息吐息で、日本原電に対する基本料金の支出に批判がくすぶる。電気事業連合会の八木誠会長(関電社長)は「契約を継続する方向で検討していくのではないか」と、2015年度以降の支払いに一応、前向きな姿勢を示しているが、基本料金を払い続けることに、「取締役の善管注意義務違反として取締役としての責任が問われる」と危惧する声も業界から出るなど、日本原電の外堀は徐々に埋まりつつある。
新興国の原発導入拡大をにらんだ新事業も狙う
こうした状況を受け、日本原電の経営形態見直し論が勢いを増している。そこで新たな収益源の本命とみられるのが、廃炉支援ビジネスだ。同社の浜田康男社長も5月の記者会見で「(東海原発で)廃炉のノウハウを蓄積しており、これを役立てられないか検討している」と述べている。政府が原発の寿命を運転開始から原則40年に決めており、老朽化の目安となる稼働後35年以上の国内原発が10基以上あり、今後の需要が見込める。コンサルタント料をとるほか、将来的には、廃炉作業自体を請け負うことも視野に入れ、日本原電社内で検討を進めている。
新興国の原発導入拡大をにらんだ新事業も狙う。官民で初めて受注したベトナムの原発建設にあたり、現地調査を任された実績を持つことから、設備設計や運転技術供与など原発輸出支援や海外事業にも取り組むことを検討している。
さらに、東電の東通原発(青森県)の建設を受託することも浮上している。同原発は2011年1月に着工したが、大震災で中断したままになっている。日本原電に任せれば、東電は福島第1原発廃炉その他にマンパワーを振り向けられることになる。
こうした原発廃炉や国内外の原発建設の受託等の延長上には、日本原電を原発の運転・保守や廃炉の「受け皿会社」とする考えに行きつく。日本原電自体の原発が稼働できないとすれば、原発を持たずに運営などを請け負う会社になる可能性もある。
さらに、日本原電の経営形態見直しにからんで、東電の柏崎刈羽原発など、福島第1と同じBWR原発を原電に集約するなど、長期的には、各電力会社が保有する原発の再編につながる可能性も取りざたされる。