アベノミクスによって円安に振れて株価上昇が上昇し、大企業や富裕層は確かに潤った。しかし、中間層にはその恩恵は及ばず、格差が拡大した。
経済評論家・国際金融アナリストで、明治大学大学院兼任講師の小田切尚登氏に、「格差」が今後どうなるか、どうあるべきなのかを聞いた。
本当はお金持ちにたくさん使ってほしい
―― アベノミクスによる株価上昇で、株式などを保有する富裕層とそうでない人との格差拡大が指摘されています。
小田切: わたしの周りにも株で儲けてホクホクの人がいます。株を持っていない人も年金などで間接的に保有しているのですが、高値で売れるわけではないので、個人的には何もいいことがありません。このように、株式を保有する勝ち組と、保有していない負け組とに分かれること、つまり格差社会になりつつあるのは、なにも日本だけではありません。米国はもちろん欧州でもそうですし、たとえば韓国でさえ、(よくも悪くも)財閥が存在して格差が問題になっています。格差社会は、いわば世界的な潮流なのです。
そうした中で、日本だけが分厚い中流層を維持できるはずがありません。ある意味、負け組が出るのは仕方がないことで、割り切るしかない。途上国で年収10万円の人と同じことしかできない日本人が年収300万円を維持していけるはずがないですから。
そうした中で、税収を増やして、膨れ上がった政府の借金を返していくには、負け組に必要な手当てをしつつも、勝ち組をさらに強くしていくことが何より必要です。
ただ、そこで気になるのが日本人気質というか、富裕層の消費行動なんです。
―― 「日本人気質」というとどんな意味ですか。
小田切: 日本人は昔から、とにかくお金を貯めようとします。海外からはそれが理解されず、よく「日本人はおカネの使い方を知らない」などといわれます。1980年代のバブル絶頂期でさえ、日本人は不動産や株式などの投資に走っただけで、消費はほとんど増えませんでした。
たとえば住宅ですが、米国では給料が増えたり事業が成功したりするにつれて、広い住宅にステップアップしていきます。一方、日本人男性に「どういう家に住みたいですか?」と聞くと、広さと住所と住宅ローンのことしか考えていない人が圧倒的に多い。人生最大の買い物の家におカネを使わないで何に使うのか。おカネは墓場まで持って行かれないのに、やたら老後生活を考えてとか、子どもにいくら遺そうとか、計算します。本当はお金持ちにたくさん使ってほしいのに、お金持ちほどケチで貯めこむという習性は日本くらいです。
モノづくりの技術力は大きな強み
―― 日本はどうすればいいのでしょうか。
小田切: 国の借金返済のためにも、1日も早く景気を回復させなければなりません。海外へ行くと、日本の産業の力強さは本当にすごいと感じます。世界的には自動車や機械、素材や化学など、よく言われることですが、日本のモノづくりの技術力は大きな強みです。そこをさらに磨くしかありません。
モノづくりの現場では、日本人のよさは「信用できること」「まじめに働くこと」といわれます。これは大きなアドバンテージで、そこはもっと自信をもっていいのだと思います。しかし、マーケティングやデザイン、独創性といった点で弱いため、収益力で見劣りする場合も少なくなく、そこが今後の課題でしょう。
また、米国はたとえば、自動車もエネルギーも、映画や音楽もどれをとっても強い。日本はモノづくり以外の分野、金融、医療、IT、エネルギー、小売り、エンタテイメントなどではまだまだ弱いです。このところ自動車ばかりが儲かっているようにみえますが、世界で競争力のある産業が勝ち組になるのは当然ともいえます。
モノづくりだけでなく、いろんな分野に勝ち組が出るようになることが望まれます。
―― 政府は具体的に、なにをすべきなのでしょうか。
小田切: 国がすべき努力としては、国際収支を毎年黒字にすること。(米国より低いのに)法人税率の引き下げなど、必要のない減税をやめること、少子高齢化の厳しい中でも補助金抜きでアベノミクスの「成長戦略」をやり抜くことでしょうか。ただ、実際には政府が経済成長に貢献できることは少なく、民間の邪魔をしないことが何より大事。民間企業が自由闊達に、そしてフェアにビジネスを展開できるような環境を整えること。それに尽きます。(連載おわり)