正月といえば毎年話題に上るのが、「餅を喉に詰まらせる」事故だ。あまりにも定番すぎて、ああ、またか――としか思わないかもしれない。しかしその被害がどれだけ多いか、ご存じだろうか。
東京消防庁のまとめによれば、2009年から14年までの5年の間に、餅などを喉に詰まらせて救急搬送された人は、586人に上る。うち正月3が日だけでその数は126人、9人が亡くなった。しかもこれは東京消防庁が管轄する都内(一部地域を除く)だけの数字であり、全国ではさらに多いことになる。
府中刑務所でも死亡事故が
参考までに、ここ数年間に各地の新聞で報じられた事例をいくつかピックアップしてみたい。
1日、山形県の59歳男性が自宅で餅を喉に詰まらせる。家族が119番通報し、駆けつけた救急隊が餅を取り除くことに成功するものの、すでに心肺停止状態でそのまま亡くなる。この年、同県内だけで5人が亡くなっている(2012年)。
12月31日、福島県の70代男性が昼ごはんの餅を喉に詰まらせる。消防本部からの電話での指示に従い、家族が吐き出させて命に別条なし(2011年)。
1日夕方、東京都の府中刑務所できな粉餅を食べた70代の男性受刑者が喉に詰まらせる。刑務官が吸引器で吸い出そうと試みるも吸い出し切れず、搬送先の病院で亡くなる(2013年)。
1日朝、新潟県の83歳男性が雑煮を1人で食べていたところ、喉に詰まらせる。苦しんでいるところを家族が発見し、救急隊員が餅を取り除くも、間もなく亡くなる(2012年)。
いずれも新聞で報じられた範囲でしかないが、毎年少なくとも10人前後の死亡が確認できる。家族や救急隊員の対処で事なきを得る例もあるが、懸命の救助にもかかわらず「手遅れ」になるケースも珍しくない。
意識の有無を確認したうえで咳をさせる
なぜ、餅の事故がここまで多いのか。消費者庁が2013年末に発表した資料によれば、餅の「温度変化」が大きな原因の1つだという。
餅は加熱すると柔らかくなるが、冷えると硬くなる。専門家によれば「硬くなり始める」境目は40度前後、ちょうど体温に近い温度だ。焼きたての餅も、冬の寒い室内、さらに口の中を通過することで温度はこのラインを下回り、硬さ・粘着性を増す。結果として柔らかかったはずの餅が、喉に達するころには危険な状態に変化してしまうのだ。
特に朝起きた直後は、人間の口や喉の動きも鈍い。元日の朝ごはんに餅、という人も多いだろうが、先に口の中を飲み物などで潤すなどの対策が必要だと消費者庁では強調する。
また上述の東京消防庁のまとめを元に計算すると、全体の約94%が60歳以上だ。一方、40~50代の中年世代、それどころか20代の若者でも搬送例がある。世代を問わず注意が必要だ。
では、万が一詰まった場合はどうすればいいか。東京消防庁によれば、意識の有無を確認したうえで咳をさせる、それが無理なら、相手の胸か下あごを支えてうつむかせながら、何度も背中を叩くのがよい、という。同庁では、ウェブサイトなどで対処法を紹介するなどして、事故防止を呼びかけている。