2014年の国内景気は4月の消費増税後に急ブレーキがかかり、腰折れ感が強まった。その原因は急速な円安進行や原料高などによる物価上昇だったが、13年末には多くのエコノミストらはアベノミクスで、「景気回復」「デフレ脱却」と息巻いていた。
2014年はどこを読み間違えたのか、そして新年、景気はどう動くのか、昨年も見通しを語った第一生命経済研究所の主席エコノミスト、嶌峰義清氏に聞いた。
遅きに失した日銀の追加金融緩和
―― 2014年に「景気は回復する」とのことでしたが、多くの国民にとっては「実感なき回復」で終わってしまったようです。
嶌峰: 結果的には、4月の消費増税が足を引っ張ったといえます。今回の増税による消費者の負担増は8兆円といわれています。これは1997年に消費税率が3%から5%に引き上げられたときと同じ規模です。周知のように、97年は金融危機の影響もあって景気悪化に拍車がかかり、デフレへの入口になりました。それと同じ程度の負担増があったにもかかわらず、なにも手を打たずにきたことが景気失速の原因といえます。
―― アベノミクスを評価すると、100点満点で何点くらいになりますか。
嶌峰: 2013年は80点。14年は40点ですね。1年目は思いのほか絶好調だったが、2年目は油断して失速したといったところでしょうか。
―― どうすれば、景気は「腰折れ」しなかったのでしょう。
嶌峰: 正しくは、手は打ったのですがタイミングが遅かった。10月末の日銀による追加の金融緩和がそれです。しかし、消費税率の再引き上げの判断を、2014年7~9月期のGDP(国内総生産)をみて判断するといっていたのに、それまでなんの手も打ちませんでした。
日銀が追加の金融緩和に踏み切ったのは、当時「消費増税への地ならし」といわれましたが、それならなぜもっと早くやらなかったのか。遅きに失したのは日銀、しいては安倍政権に「油断があった」としか思えません。
そもそも、アベノミクスは「デフレ脱却」が目的ですが、それを短期間に一気にやり抜くことを狙っています。なぜか――。長期間での回復を待っていると、その間に景気を左右する経済環境や金融環境が変わりかねないからです。いまはグローバルな動きを無視できません。国内だけでなく、海外の経済・金融情勢が大きく日本にもかかわってきますから、そういったリスクを抑えるためにも短期決戦しかないのです。
4月の株価下落が消費マインドを冷やした
―― 2014年の国内景気について、エコノミストはなにを見誤ったのでしょうか。
嶌峰: 一つは米国景気です。2014年は米国景気が立ち直ってくるとみていましたが、1~3月期の成長が寒波の影響もあって鈍かった。米国の経済成長が本格的に上向いてきたのは、4~6月期以降です。米国経済は中国やアジア、欧州の景気をもけん引しますから、米国景気の立ち遅れが結果的に日本にも響いたといえます。
―― 実質賃金が上がらなかったことで、消費マインドも上がらなかったとの指摘があります。その点はいかがでしょうか。
嶌峰: たしかに、その影響がないとはいえません。ただ、給料と物価の関係で、アベノミクスが大きく貢献した2013年をみると、給料は1%程度下落。その一方で、物価は約1%上昇しました。その差は2%(ポイント)ありましたが、それでも消費マインドは上がり、モノも好調に売れました。
ところが、2014年の給料の上昇は0.5%。政府が経営者の尻を叩いたものの、結果的にわずかな上昇にとどまりました。一方、物価は3.0%も上昇して、その差は2.5%(ポイント)に広がりました。
とはいえ、前年と比べてわずか0.5%の差で消費が冷え込むことも考えにくい。では、消費マインドがさえなかった原因はなにか――。それは4月の消費増税後に株価が下落したことにあるとみています。13年は年間を通じて株価は右肩上がりでした。株価は景況感に大きく影響します。株価への不安が(消費マインドにとって)大きかったといえます。