筆者はリフレ派といわれる。リフレ派といっても、インフレ目標による金融政策を言うだけなので、世界では標準的な政策であるから、特別に「○○派」と呼ばれることはない。ごく普通の経済政策である。
ところが、日本では、学会もマスコミも「デフレ派」というべき人が多すぎる。
「リフレ派VSデフレ派の経済論争」の読み方
そうしたデフレ派は、安倍首相がインフレ目標を言い出した2年前、インフレ目標をやったら、国債暴落、円暴落、ハイパーインフレになるといっていた。2%のインフレ目標をやっても、そんなことは何も起こっていない。これだけでも、デフレ派のデタラメさが分かろうというものだ。
国債は暴落どころか、12月25日(2014年)の新発2年債の入札ではマイナス金利になっている。
円は予想通り円安になっているが、暴落ではない。ところが、デフレ派は性懲りもなく、円安が問題だという。感情論に訴え、自国通貨安がいいはずないという言い方だ。
しかし、筆者にはどこが問題なのかさっぱり分からない。実態経済の話をいえば、円安は失業を少なくし、GDPを増加させるので、悪いどころか国民生活にとって朗報だ。過去のデータをいえば、10%の円安によって、失業率が0.3%程度低くなり、実質GDPは2%程度増加させている。実は、円安で最大の利益を受けているのが政府だ。外為特会では10兆円以上の含み益になっている。来年の課題は、この利益をいかに国民に還元するかだ。
読者の中には、リフレ派とデフレ派の経済論争がよく分からないという人もいるだろう。両者の話を聞いていると、それぞれもっともらしくみえる。そうしたときには、過去の発言と実際に起きたことを比較するのが一番いい。リフレ派の言うことが百発百中というつもりはないが、デフレ派の人の予想がほとんど外れであるのに対し、リフレ派の的中率はそれよりも高い。
「雇用」をどう見ているか
それと、もう一つのポイントは、雇用をどう見ているかが違う。はっきり言えば、金融政策は雇用政策である。というのは、失業とインフレ率の間には逆相関の関係がある(フィリップス曲線)。このため、デフレだと大きく失業率が高まる。ただ、インフレ率が2~3%になるまで、失業率は大きく減らせるが、それ以上のインフレになっても失業率はあまり減らせない。このため、先進国では2%程度のインフレ目標が設定され、できるだけ失業を減らす政策がとられている。これが、リフレ派の基本的な考え方だ。
ところが、デフレ派は、デフレでもいいという。これは失業率が高くもいいということだ。彼らからみれば、失業や倒産はその人たちの努力不足である。逆にいえば、常に完全雇用で、倒産はありえないという立場ともいえる。
こうした立場から出てくる政策は酷い。無能な人や企業を淘汰するためには、失業や倒産が必要であるとも主張しがちだ。金融緩和をして雇用増や企業倒産減になることは「ゾンビ」の温存になるから、金融緩和してはいけないという本末転倒ぶりだ。
デフレ派の人は、雇用のことをあまり言わない。だから、論争するときは、雇用を突っつけば、すぐに馬脚を現す。ただ、成功した企業経営者の中にも、デフレ派の人がかなりいるのは困ったものだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。