「雇用」をどう見ているか
それと、もう一つのポイントは、雇用をどう見ているかが違う。はっきり言えば、金融政策は雇用政策である。というのは、失業とインフレ率の間には逆相関の関係がある(フィリップス曲線)。このため、デフレだと大きく失業率が高まる。ただ、インフレ率が2~3%になるまで、失業率は大きく減らせるが、それ以上のインフレになっても失業率はあまり減らせない。このため、先進国では2%程度のインフレ目標が設定され、できるだけ失業を減らす政策がとられている。これが、リフレ派の基本的な考え方だ。
ところが、デフレ派は、デフレでもいいという。これは失業率が高くもいいということだ。彼らからみれば、失業や倒産はその人たちの努力不足である。逆にいえば、常に完全雇用で、倒産はありえないという立場ともいえる。
こうした立場から出てくる政策は酷い。無能な人や企業を淘汰するためには、失業や倒産が必要であるとも主張しがちだ。金融緩和をして雇用増や企業倒産減になることは「ゾンビ」の温存になるから、金融緩和してはいけないという本末転倒ぶりだ。
デフレ派の人は、雇用のことをあまり言わない。だから、論争するときは、雇用を突っつけば、すぐに馬脚を現す。ただ、成功した企業経営者の中にも、デフレ派の人がかなりいるのは困ったものだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。